【バーティカルSaaS】スパイダープラス 元断熱工事の建設業者が産み出した業界トップの建設業SaaS(3/4 ページ)
かつて3Kと呼ばれた建設業の働き方をデジタルで変革しつつある企業がある。建築図面・現場施工の管理アプリ「SPIDER PLUS」を提供するスパイダープラスだ。「生産性の低さは下から数えた方が早い」と言われてきた建設業界に、スパイダープラスはいかにしてDXの風穴を開けることができたのか。
「SPIDERPLUS」 逆転の戦略
――「SPIDERPLUS」は「ゼネコン」向けではなく、「サブコン」向け。一般的にビジネスでは、上流を押さえることで業界全体に波及させていく流れがあると思いますが、なぜ下流から波及させることができると考えたのでしょうか。
建設業においてICTで効率化を図れる本丸はサブコンが担当するような現場にあり、工事現場の監督も「ゼネコン」ではなく「サブコン」に多く所属をしています。
私たちが取り組む前まで、SIer系の同様のサービスは「ゼネコン」をメインターゲットとし「サブコン」へのシャワー効果を狙う動きを取っていました。しかしながら現場を本当に効率化させるような細部にまで作り込んだプロダクトを作る上では「サブコン」を第一優先すべきです。
これは自身が設備工事を行ってきた経験によって得た戦略で、このサブコンの高い支持を得て圧倒的な利用がなされることで、工事進行全体を管理したい「ゼネコン」へも波及していくことを狙っていました。
―― 逆転の発想といえますね。鮮やかな戦略だと思いますが、一般的にもIT化が遅れていると見られていた建設業においてサービスを浸透させることは難しかったのではないでしょうか。
今でこそバーティカルSaaS企業と呼ばれるようになりましたが、10年前は当然そのような言葉もありませんでした。
建設業におけるICTの活用は一朝一夕には進まない状況でしたが、5年ほど前から潮目の変化が加速した印象です。スーパーゼネコン各社がICTシステム利用のセキュリティ要件を緩和したことに加え、40、50代の職人の方もスマホ・タブレットを日常的に使うようになり、ITデバイスへの抵抗感がなくなったことなどを契機として導入が進みました。
――私たち一般人からすると建設現場での利用イメージが伴わないのですが、現場ではどのくらい活用が進んでいるのでしょうか。
ある大型スポーツ施設では、大規模工事のため十数社に及ぶサブコン企業が集う中で、ほとんどの企業が「SPIDERPLUS」を利用し現場の管理を行っていました。そのため非ユーザーもスムーズな情報共有のためには、「SPIDERPLUS」を利用せざるを得ず、新たに導入をいただきました。ネットワーク効果が効き、業界標準ツールとしてのポジションを確立し始めていると見ています。
―― 同じBtoBシステムの中で、オフィスで利用されるようなホリゾンタルSaaSとは異なる部分が多いように見受けられます。建設業向けのバーティカルSaaSという観点ではどのようなことが特徴に挙げられるでしょうか。
ホリゾンタルSaaS領域であれば、企業をまたいでも経理や顧客管理など横断的に共通する業務があると思います。一方で、建設領域では現場ごとに状況が異なることも多く、個別性、専門性が高いのが特徴です。
そのため、ユーザーのサポートに当たっては建設関連の専門知識の習得が必要不可欠であり、この教育には力を割いています。そのためスパイダープラスは、お客様の幅広い問い合わせに対応をできるような人材を輩出すべく5年、10年と長くに渡って働いてもらえるような環境を整えています。
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