「日本人の魂」を買われてはならない――僕がパナソニックに行く理由:長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」 パナ新CIOの本音【後編】(2/3 ページ)
元メルカリCIO長谷川秀樹氏が、IT改革者と語る「IT酒場放浪記」。今回のゲストは、P&G、ファーストリテイリング、アクサ生命保険でCIOを務め、5月にパナソニックのCIOに就任した玉置肇氏。外資企業でキャリアを積んだ玉置氏が、歴史ある日本企業=パナソニックに入社した背景とは? そこには、熱い思いがあった──。
日本企業はすぐ買える、という現実
玉置: 日本人はもっと時価総額を意識した方がいいですよ。この間、マイクロソフトがAI事業を持つニュアンスコミュニケーションズを約2兆1600億円で買収すると発表しました。
アップルの時価総額は約240兆円。アマゾンが約170兆円。テスラが約80兆円。対して日本のトップは、トヨタ自動車の約22兆円。ファーストリテイリングが約10兆円。パナソニックは約3兆3000億円です。世界の有力企業が買おうと思えば、すぐに買える金額なのです。最悪の場合、主要な技術だけ抜かれて切り売りされる。これは絶対に阻止しなければなりません。
1990年代、僕が就職した頃は携帯電話が出始めで、日本の携帯電話の市場規模は約1兆8000億円ありました。それが今、携帯電話を作っている会社ってどこがあります? ソニーしかない。つまり、1兆8000億円の市場がこの国から消えてしまった。われわれは、それに気が付かないといけないんです。
長谷川: 市場構造が変わってしまっている。寂しいことですよね。
玉置: 僕がパナソニックに行った理由もここにあります。長谷川さんも僕も、日本をより良くしたいから、叩かれてもこうやって発信するわけです。でも、日本社会、あるいは日本経済を本当に良くしようと思ったら、やはり本丸に飛び込んでいかないといけない。
今の日本は韓国より一人当たりのGDP(国内総生産)が低い。先進国の中でも日本企業の賃金は低迷し続けています。20年前から年収にして数万円しか上がっていない計算です。P&G時代に気が付いたことがあります。中国と日本では、初任給こそ日本の方が少し高いものの、昇進するにつれて差が開き、ドル換算で中国の部長は日本の部長の倍もらっているんです。おかしいですよね。こんな状態で、この国を子どもたちの世代に引き継げますか?
僕はナショナルのテレビを見て育った人間です。パナソニックにはものすごく愛着があります。松下幸之助が作った松下電器という会社、ブランドは、日本人の魂と言っても過言ではないでしょう。その会社が輝かないと、日本経済の再活性化はないと思います。
日本企業が再び輝くには
長谷川: 日本の会社が再びジャンプアップするには、何をどうしたらいいでしょうか。
玉置: カルチャー変革です。パナソニックも今、全社を挙げてカルチャー変革に取り組んでいます。
ITやビジネスの変革を推し進めるには、カルチャー変革が不可欠です。社内が昭和の階級社会そのままというような会社が、クラウドを導入しても宝の持ち腐れです。技術を新しくしたところで、そういう会社はオンプレミスかつ昔ながらのヒエラルキーを前提に業務が回っていますから、本質的には何も変わらない。
われわれの年代は、どんなに粋がってもクラウドネイティブではありません。クラウドネイティブな世代が気兼ねなく発言できるようなカルチャーを作っていかないとダメだと思います。
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