多くの企業が取り組む「スキャンで紙をデジタル化」がダサい理由:経理業務のあるべき姿と未来を探る(3/3 ページ)
多くの企業が電帳法対応で取り組む「紙書類のスキャン」だが、それを「ダサい」と指摘するのが、中小企業の経理業務に詳しい税理士の杉浦直樹氏だ。簡単にデジタル化できるスキャンが、いったいなぜダサいのか。
「紙の書類は、スキャンで“魂”を取り出し、“幽体離脱”させてしまうとよいでしょう。そして、その魂だけを社内でやりとりするのです。魂の抜け殻である書類は、即座に箱詰めなどをして、総務部などが一元管理するとよいでしょう」(杉浦氏)
例えば、証憑が企業に入ってきた時点で即座にデータ化してしまい、紙とデータを分離し、それぞれを別の流れで流通するようなフローが想定できる。
法対応は「SaaS任せ」でいい
今回の電帳法改正によって盛り上がっている「紙書類のデジタル化」議論だが、あくまで重要なのは「紙書類をなくす」ということではなく、データ化を通して、その適切性を証明することだ。
「現場としては、細かな法対応を追いかけるのはあまり意味がないことなのかなと考えています。こうした法改正や、税務上の要件緩和などに対しては、各SaaSベンダーなども対応しているところであり、現場で対応するというよりは外部に任せた方がいい部分だと考えています。例えば、売り上げが数億円規模の企業でも、経理事務に携わる人員はわずかしかいないケースも多くあります。その人員で、日々の会計処理だけでなく、新たな法対応までをカバーするのは難しいですよね」(杉浦氏)
その上で、システムが可能にする未来については次のように話した。
「今後、SaaSなどのシステムがもっと普及してくれば、証憑で適切性を証明するという世界から、取引先同士がP2Pで帳簿の整合性を確認する、というような世界が来ると考えています。また、請求書よりももっと細かい、明細単位などのレベルで取引がデータとして記録されるようにもなっていくはずです。
証憑の本質が、先ほどお話したように、取引などの“対”をなすものだということを考えれば、そもそも証憑ではなく、各社の会計がプラットフォーム上で参照できれば十分になるはずです」
実際、2023年の電子インボイス制度の導入を前にして、電子インボイスの標準仕様を策定・推進する協議会なども発足している。杉浦氏が話した通り、各社間のデータがシステムのプラットフォーム上で連携する未来はそう遠くないうちに実現されるのかもしれない。
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