それ、本当にブラック企業? 日本社会に誤って広がる「ホワイト企業信仰」が迎える末路:働き方の「今」を知る(4/4 ページ)
「ブラック企業」というワードの一般化に伴い、あれもこれもブラックだと指弾されることも。筆者は、そんな風潮に警鐘を鳴らす。そもそも「いい会社」って何だろう。
例えば、スマートフォン向けゲーム開発などを手掛ける某社は、業界の中でも歴史が長く、株式公開も早期に果たして、現在はほぼ残業もないとされる。効率的な労働環境を成し遂げた、いわゆる「勝ち組」企業である。株式公開までは給与水準も低かったものの、公開後の現在は大幅にベースアップも果たし、業界内では好待遇な部類に属する。そんな、社員にとって何ら不満理由はないはずの同社において、一時期「優秀な人から辞めていく」現象が見られたことがあった。
筆者が調査したところ、理由は、同社の「ホワイト企業化」そのものにあった。
株式公開に合わせて、同社の業務はキッチリと縦割りになって意思決定システムが整備されたが、その分何をやるにも上司の承認が必要になったり、他の部門の領域に重なる仕事を手掛けることは「領空侵犯」扱いになったりと、従前の社風であった自由闊達さが失われてしまったのだ。加えて、組織体制は上場企業レベルにキッチリと整備されたが、中の従業員は上場前の組織に最適化して採用されている。そこにミスマッチが生まれていた上、その変化について従業員がどう感じているかという点に経営者が無関心だったことが原因であった。
そう考えると、従業員にとっての「いい会社」≒ホワイト企業においても、さらに細分化して分析することができそうだ。ホワイト企業と称される根拠である「低離職率、低プレッシャーな環境」は俗に「まったり」と称される。これともう一つの根拠である「高給」を組み合わせて、それぞれの在籍者から訴えがあったネガティブ要素を挙げていこう。
まったりホワイト企業のデメリット
- 仕事は楽、プレッシャーもほぼないため居心地はいいが、ルーティン業務中心で自分が成長している実感を全く持てない
- 完全年功序列で、仕事を多少サボっていても評価が落ちない代わりに、成果を挙げたところで給料はほぼ変わらない
- 上の世代が詰まっているため出世が遅くなる。かつその世代はギリギリ逃げ切れると考えているのか、やる気は見られないのに企業にはしがみつこうと必死
高給ホワイト企業
- コンプライアンスが厳しく、残業は絶対禁止だが、12時間くらいかけても終わらなさそうな業務量を8時間で絶対に終えなければならない。高密度ハードワークな環境
- 求められる能力もコミットメントレベルも高い。そもそも採用基準が厳しい
- 向いている人には最高の企業かもしれないが、想像以上に高い目標とプレッシャーに耐えられなかった。いくら稼いだところで、お金を使う体力も気力も残らない状態になる
まったり高給ホワイト企業
- そんな企業はそもそも存在しない
最後の「まったり高給ホワイト企業」は冗談だが、このように、「誰にとってもいい会社」は存在しないのだ。
従って、「多少ハードワークでプレッシャーも厳しく、ブラック企業と呼ぶ人もいるが、自分はそんな環境で成長したいし稼ぎたい。だからブラック企業を選ぶ」という選択肢もあっていい。もちろん、違法企業への就労を奨励しているわけではないし、違法であることを知りながら私利私欲のために人を使いつぶすような企業は、さっさと潰れた方がいいと考えている。
しかし、世間が言うところの「ブラック」をそのまま真に受けて、思考停止になることは、個人、そして組織の双方に避けてほしいものだ。ただでさえ、競争力が乏しい日本企業において、誤った「ホワイト企業信仰」が浸透して、このまま下り坂を転げ落ちていくことは避けなければならない。
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