権利であるはずの「無期雇用への転換」を、多くの有期雇用労働者が希望しないワケ:調査データから理由を探る(3/4 ページ)
働き手の権利の一つ、「無期転換ルール」。一見すると有期雇用より無期雇用の方が恵まれているようにも思えるが、このルールを希望する人は意外に少ない。なぜなのか?
2位の「契約期間だけなくなっても意味がないから」という理由にも、釈然としない印象を受けます。契約期間「だけ」なくなっても意味がないということは、契約期間以外の何かが変わるなら無期転換を希望するかもしれないと受け取ることができます。となると、それだけでは無期転換したくない理由にはなり得ません。「取りあえず無期転換しておこう」と考えてもよさそうなものです。
その点、3位の「責任や残業など、負荷が高まりそうだから」は、無期転換したくない理由になりそうです。「取りあえず無期転換しておこう」と安易に考えてしまうと、仕事の負荷が一気に高まって、後で大変な思いをすることになるかもしれません。ただ、その場合でも、ひとまず無期転換の希望を出した上で、契約を切り替える最終判断の前に、仕事の負荷がどの程度増えそうなのかの確認はできると思います。
4位の「頑張ってもステップアップが見込めないから」という理由については、「有期雇用のままならステップアップが見込める」というのであれば、無期転換したくない”理由になり得るでしょう。しかし、「有期雇用だとステップアップが見込めるが、無期雇用になると見込めない」というシチュエーションはイメージしづらいものがあります。有期のままでもステップアップが見込めるとは限らないのであれば、「取りあえず無期転換しておこう」という選択をしても良いのではないでしょうか。
さて、ここまで見てきた、無期転換を希望しない理由から受ける「釈然としない印象」を解くヒントになるかもしれないのが、5位の「辞めにくくなるから(長く働くつもりはないから)」という理由です。
無期転換で生じる「副作用」がネックに?
無期転換したからといって、退職できなくなるわけではありません。にもかかわらず「辞めにくくなる」と感じるのは、無期雇用になれば職場からずっと働き続けることを期待され、退職したいときは自ら職場に申し出なければならないことが、強いストレスになるからではないでしょうか。
その点、有期雇用のままであれば、契約更新の際に退職意向をスムーズに伝えられます。昨今、退職代行サービスを利用する人が増えているといわれるのも、退職の申し出に強くストレスを感じる人が多いことを示唆していると感じます。
こうした退職の申し出など、無期転換を希望することで生じる職場との折衝やコミュニケーションが働き手に強いストレスを与えるのだとしたら、1〜4位の理由について考察する中で受けた、釈然としない印象の正体が見えてくるように思います。
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