日本組織に「金メダルかじり」的おじさんがはびこるワケ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)
「金メダルかじり」のような敬意の欠けた行いをする人はスポーツ界だけでなく、企業などにも存在する。自分より“上”の人にはできない言動を、“下”と見下した人にはしてしまう。このようなことはなぜ起きるのか──?
念のため、簡単に“事件”をおさらいしておきます。
名古屋市の河村たかし市長は、8月4日に表敬訪問に訪れた東京五輪・ソフトボール女子の後藤希友投手から、首に金メダルをかけてもらいました。すると河村市長は、「重たいなあ」と話した後で突然マスクを外し、「金メダルをかじる」というとんでもない行動に走ったのです。
4日夜に、「最大の愛情表現だった。金メダル獲得は憧れだった。迷惑を掛けているのであれば、ごめんなさい」とのコメントを出しましたが、5日には後藤選手の所属先のトヨタ自動車が「今回の不適切かつあるまじき行為は、アスリートへの敬意や称賛、また感染予防への配慮が感じられず、大変残念。河村市長には、責任あるリーダーとしての行動を切に願います」などとするコメントを発表する事態に発展。
これでやっと「事態の重さ」に気づいた河村市長は5日午後、会見を開いたわけですが、この会見の内容が「このお方は何のために会見開いたのだろう?」と脳内が「?」だらけになるコメントの連発だったのです。
「宝物を汚してしまい、配慮が足りなかった。コロナ禍にも不適切な行為だった」「金メダルに強いあこがれがあり、『これが金メダルか』と、とっさにやった」「あのときは非常にフレンドリーな感じだった」と、謝ってんだか言い訳してんだかワケのわかない言葉を連発。
さらに、セクハラではないか? との指摘に対しては、「嫌がらせの認識は全くなかった」「歯が食い込むようなかみ方はしていない。跡は付いとらんと思う」と、これまた意味不明の、言い訳にならない言い訳に終始したのです。
この時点で、レッドカード3枚分くらいの「しょーもなさぶり」を発揮した河村市長でしたが、実はその1万倍くらい「しょーもないこと」をやっていたという事実が発覚しています。
7日に東海テレビが表敬訪問の詳細を映像で伝え、約11分にわたる動画もネット上で公開したところ、後藤投手に対し、河村市長は「できゃ〜な」(でかいな)という言葉を連発。さらには、「ぜひ、立派になっていただいて。ええ旦那をもらって。まぁ旦那はええか? 恋愛禁止かね?」などと、ニヤニヤしながら話しかけていたのです。
……まったく。こんな愚行のどこが“悪気はない”のでしょうか。
飲み屋で仲間うちで話しているわけじゃないのです。あくまでも公式の場で、一流アスリートの表敬訪問を受けた際に、「市長」という社会的地位のある人がとった行動です。せめて言い訳せず、謝ってほしかった。敬意を欠いた行動だったと猛省してほしかった。それすらできない“リーダー”がのさばっているのが、今の日本社会です。
おまけに“外野”は、「いや〜、世知辛い世の中になったね〜」だの「それくらい許してやれよ〜」だのと擁護する輩も少なくなかった。
問題は時代じゃないし、「それくらい」という程度でもない。はるか昔から、こういうトンデモ発言に涙した人たちはたくさんいました。声をあげることもできず、嫌な顔をすることも許されず、ひたすら我慢したのです。
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