アイドルフェス「@JAM」仕掛け人に聞く「思い切って捨てる」覚悟:アイドルプロデューサーの「敗北、信念、復活、成功」【前編】(4/6 ページ)
コロナで禍で奮闘しているのがポップカルチャーフェス「@JAM」の総合プロデューサーの橋元恵一さんだ。橋元さんはソニーミュージックグループに在籍し、絢香さん、ケツメイシ、山崎まさよしさんなどのビジュアルプロデュースを務めた。橋元さんが42歳まで取り組んできたビジュアルプロデュースの舞台裏を聞いた。
「思い切って捨てる」ことの大切さ
――MV制作に際し、メンバーの意向もあったと思うのですが、キャスティングやストーリーに関して橋元さん自身にはどんな考えがあったのですか?
山口保幸監督や岡田さんと話し、脚本を頂いて、5分16秒の尺に、岡田さんの書いた恋愛ストーリーをはめ込んでもらう作業をしました。
例えば100シーンを撮って、その100シーンを入れこんでいく。岡田さんの脚本全てをその尺に詰めようとすると、曲をBGMとして可視化されたストーリーを見ていく感じになってしまいます。画に見入ってしまい、本来あった曲の思いが伝わってこない。
実際、メンバーが見た時に、「映像作品としてはすごく良いけど、自分たちの歌が全然入ってこない」と言われて、そうか、そうだよなと思いました。
特にサビではないAメロやBメロ部分。サビに入る導線として、MV側からするとたくさんのストーリーを入れたくなってしまうのですが、ここの歌割りを担っているメンバーのパートがある。そこにシーンを詰め込むことによって、そのパートの歌詞が死んでしまう。そのバランスを考えて結局、撮ったシーンから実際に使ったのは半分ぐらいだったと記憶しています。
――やはり多くの人に訴えかけるために重要なのは、「思い切って捨てる」ことなんですね。コンセプトの輪郭をはっきりさせる意味で。
そうですね。そういうことを毎回やっていました。脚本家の立場になれば、なるべく入れたほうが良いだろうし、監督としてもストーリーがつながらなくってしまうとなります。でも、実は話しなんかつながらなくてもいい。結局は歌の世界観が全てなので、ドラマのストーリーは途中の部分がなくたって見る人には関係がないんです。画にないところは、皆さんの心の中の引き出しで想像すれば良いわけで。それを気付かせてくれたのがケツメイシであり、この作品でしたね。
――今でこそMVでストーリーを見せていく考え方は当たり前ですが、当時は、そこまで一般的ではなかったのですね。
ケツメイシがこうしたストーリーMVの走りだったと思っています。本人たちのクリエイティブ力も秀逸で、MVへの企画力やキャストの希望など、いつでも明確でした。
――「自分たちの歌がちゃんと入ってこない」というフィードバックも適切でしたね。「ケツメイシ」のメンバーは医療関係者でしたね。
メンバー2人は薬学部出身で薬剤師でしたね。そういう意味でも丁寧でしっかりしていました。「ケツメイシ」というグループ名も決明子(けつめいし)という生薬の名前に由来しています。昔から下剤として利用されていることから、アーティストとして「全てを出し切る」という意味から付けたと聞いています。
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