これまでになかった「箱型の授乳室」が、じわじわ増えている秘密:週末に「へえ」な話(1/4 ページ)
ショッピングセンターなどで、木製の箱を目にすることはないだろうか。高さは2メートル、幅は1メートル80センチもあって、壁面には哺乳瓶のイラストが描かれている。これは箱型の授乳室で、2〜3年ほど前からじわじわ増えているのだ。その背景に何があるのかというと……。
2〜3年ほど前から、気になっている木製の「箱」がある。箱といっても高さは2メートル、幅は1メートル80センチもあって、壁面には哺乳瓶のイラストがどーんと描かれているのだ。
ショッピングセンターや駅の構内などでよく目にするので、ちょっと調べたところ、箱の正体は授乳やオムツを替えるための個室スペースになっている。ITベンチャーの「Trim」(トリム、横浜市)という会社が展開していて、商品名は「mamaro」(ママロ、1台250万円、レンタルは月4万9800円〜)というのだ。
既存の授乳室といえば、試着室のようにたくさん並んでいて、仕切りはカーテンのみ。カギが付いていないので、セキュリティ面で不安がある。数十年前からこのスタイルは変わっていないなあと思っていたが、ママロは箱型で内側からカギをかけることができる。また、畳1枚分ほどの広さなので、お母さんと赤ちゃんだけではなく、上の子どもも一緒に入ることができる。ソファとイスをつなげると、オムツを替えるスペースになるので、一カ所で授乳とオムツを替えることができるのだ。
「ほほー、それは便利そうだ。で、設置台数はどのくらいなの?」と思われたかもしれないので、調べてみたところ、ママロが登場したのは2017年のこと。その後、新型コロナの感染が広がって、商業施設が閉鎖に追い込まれる期間があったにもかかわらず、8月1日現在で290台が設置されているのだ。
しかし、ここで疑問が一つ。先ほど申し上げたように、トリム社は、創業2015年のITベンチャーである。普段はアプリの開発などに追われているのに、なぜ箱型の授乳室をつくったのだろうか。同社は「Baby map」という授乳室やオムツ替えスペースがどこにあるのかが分かる地図検索アプリを手掛けているが、ある問題に直面していた。
「赤ちゃんは年に80万〜90万人は生まれるのに、授乳室は全国に1万8000カ所ほどしかないんですよね。不足しているので、お母さんたちは見つけることが難しい。この問題を解決するには『Baby map』自体が不要になる世の中になればいいのではないか。このように考え、授乳室をつくることにしました」(長谷川裕介CEO)
「逆転の発想」ともいえるので、ストーリーとして面白い。しかも“ありそうでなかった”サービスが利用者にウケ、設置台数が増えている――。このように書くと、ビジネス誌あるあるの成功物語のように感じるかもしれないが、現在の立ち位置にいたるまでの道のりは平たんではなかったようだ。
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