高級ブランドの分岐点 EC時代、攻めるグッチと守りのシャネル:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(4/4 ページ)
コロナ禍で、ECの市場が急速に拡大している。EC化には最も遠いと思われていたハイブランドファッションも、「EC化をどう捉えるか」の分岐点に立たされている。グッチ、ルイ・ヴィトン、シャネルなど、各ブランドの戦略の違いとは?
AIを活用した商品レコメンドや2次流通市場での価格査定
ハイブランドファッション界では、AIの活用も広がっています。LVMHはGoogleとAIの活用における協定を結んだと発表し、今後、それぞれのブランドでAI活用による需要予測や在庫管理を強化して、顧客にターゲットを絞った商品をより適切に提案できるようにしてゆく方針を明らかにしました。
実際、ヴィトンアプリには、身近な商品の写真を撮ってその場で物体検知を行い、類似する商品をレコメンドする機能が搭載されています。私もいくつかの商品で試しましたが、精度が良い商品群とそうでないものの差が大きいと感じました。
また、ハイブランドファッションにおいて欠かせない存在が2次流通市場です。アメリカでは大手中古マーケットプレースが複数あり、それぞれ違いがありますが、特にAIに注力をしているのが14年に創業したRebagです。
Rebagでは、「クレア」というAI機能を開発し「クレアトレード」というサービスを先日発表しました。これは、Rebag上で売られている中古のハンドバッグを購入する際に、自分の持っている出品予定の商品の写真を撮ってアップロードすると、その場でクレアAIが査定を行い、査定額を購入額からリアルタイムで差し引いてくれるというものです。
例えば、2000ドルの中古バッグを購入したい場合、手持ちのハンドバックをクレアAIを通して査定し、1500ドルの査定額だとしたら、その場で差分の500ドルのみを支払い2000ドルのバッグが購入できるという仕組みです(その後、査定済みのバッグをRebagに郵送します)。
今まで、ハイファッションの中古市場では、商品の売り買いを一度の手続きで行うということがありませんでした。
高いハンドバッグを購入するために手持ちの商品を売る場合には、売り手を見つけて販売し、郵送、入金を行う必要があるため、どうしてもタイムラグが発生してしまいます。そして、その間に人気商品が他の人に買われるかもしれないという心理的な壁が生じてしまうため、新しい商品を買うために手持ちの商品を売る、という発想が生まれにくかったのです。
しかし、クレアAIを通すことで「手持ちの商品を売る」という作業を一つの購入フローに取り入れることができます。中古市場では売り手を増やすことで中古商品を多く入手し、流動性が高い形で供給することが何より重要なため、商品の流動性を高める観点からも、クレアトレードは興味深い機能であると言えるでしょう。
ちなみに、私自身でもクレアAIを試してみたところ、ロゴなどがあるバッグや人気モデルの場合には正しく認識できても、古いモデルの商品画像などは認識できないようでした。この点に関しては、今後、商品の画像データや属性データを管理しAIの精度を高めることで徐々に解消され、顧客体験も向上できるのではないかと考えられます。
著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ)
パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科客員教授(AI企業戦略)を務める。毎日新聞「石角友愛のシリコンバレー通信」など大手メディアでの寄稿連載を多く持ち最新のIT業界に関する情報を発信している。
著書に2021年4月発売の『いまこそ知りたいDX戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、2021年3月発売の『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
関連記事
- “買いすぎ防止”スマホレジを導入したら、客単価が20%上昇 イオン「レジゴー」の秘密に迫る
イオンのレジに革命が起きている。買い物客が貸し出し用のスマートフォンを使い、かごに入れる前に商品をスキャン、専用レジで会計する「レジゴー」だ。スキャンにかかる時間は約1秒。レジでは決済のみを行うため、レジ待ちの渋滞も起きづらい。常に商品の一覧と合計金額が確認でき、利用者にとっては買い過ぎの防止にもなるレジゴーの導入で、客単価が向上したという。その理由を聞いた。 - なぜ、コメ兵は出店を急ぐのか? 戦略を支える、すごいAI
コロナ禍で多くのリアル店舗が打撃を受けているが、コメ兵ホールディングスは大規模な出店を計画している。傘下のコメ兵、K-ブランドオフそれぞれ今後3年間の間に100店舗出店の予定だ。理由はなぜなのか。また、それを支える「AI真贋」技術とは、何なのか。 - 「日本版ジョブ型雇用」の現在地 日立、富士通、ブリヂストンなど【まとめ読み】
「ジョブ型」とは結局何か? 日本でジョブ型の導入を進める7社の事例を通して、「日本版ジョブ型雇用」の現在地を探る──。 - 【解説】ウォルマートのIoTは、何がすごいのか
ウォルマートの業績が好調だ。背景にはIoT活用があるという。同社のIoT戦略や運用の何がすごいのか、またコロナ禍でどのようなことに役立ったのか。解説する。 - 崩壊寸前だったVoicy 離職率67%→9%に立て直した人事責任者が語る“人事の本質”
日本の音声コンテンツ市場の先頭を走る、音声メディア「Voicy」。3カ月で利用者数が2.5倍になるなど、コロナ禍で驚異的に成長している。しかし、たった1年半前は離職率が67%にのぼり、組織崩壊寸前だったという。そんな中でVoicyに入社し、抜本的な人事改革を行ったという勝村氏。一体どのような改革を行ったのか──?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.