500人の組織から数人の部署へ突然の異動 「@JAM」仕掛け人は、いかにして日本有数のアイドルフェスを作ったのか:アイドルプロデューサーの「敗北、信念、復活、成功」【中編】(3/5 ページ)
ポップカルチャーフェス「@JAM」の総合プロデューサーの橋元恵一さんは、絢香、ケツメイシ、山崎まさよし国内を代表するアーティストに関わり、波に乗っていた。しかし42歳の時に異動を命じられ、門外漢のアイドル業界に飛び込むことになる。そこからいかにして、有数のアイドルフェスを作り上げてきたかを聞いた。
アイドルに可能性を見いだす
――その後、アニソン、ボカロ、アイドルの中で、橋元さんはアイドルに可能性を見いだしたんですね。
アニソン、ボカロ、アイドルの3つのキーワードでイベントをやっていました。ただ当時は、自分自身には何も刺さっていなかったのだと思います。私自身がやりたいと思えるものをやらなければ、人が良いというものを集めて作っても、勝てないと思いました。自分がやりたい、やるべきものを決めないといけないと思い、アイドルの可能性に真剣に向き合おうと思ったのが12年です。
ただ、@JAMというイベントでは18年まで2日間のイベントうち1日はアニソン、1日はアイドルというかたちでアニソンもやっていたんです。実際には、アニソンのほうは専任チームに任せていて、私自身は向き合っていませんでした。そこには当時、大人気だったアイドルマスター シンデレラガールズ、ラブライブ!といった面々も出演していました。ただ、いくら@JAMのプロデューサーであるといっても、結果アニソンには信念と強い探求心を持てなかったんだと思います。
――その信念は、今のイベント制作、キャスティングにも影響を与えていますか?
イベント制作、キャスティングに関しては数字にこだわる点と、こだわらない点があります。興行を成功させる観点から言えば、会場費やキャスティング費など全ての制作費は事前に分かりますから、重要になるのは集客が何人かを読むことです。
興行の場合、一般的には会場キャパシティーに対して70〜80%の集客によって、採算分岐点を作ります。従って、その採算分岐点をクリアできるキャスティングをして、「このアーティストは何人の集客があるか」をカウントしないと7割の想定はつくれないんです。「このアイドルは1000人来る」など全てを数値化しなければなりません。ただ私は、「このアーティストは何人呼べます」という数値化がとても嫌いなんです。
――「人を数字に置き換えたくない」ということですか?
いろんな事務所さんから、アイドルを売り込まれることがあります。その事務所さんが、例えば「所属アイドルをこう考えていて、こう売り出していき、来年は武道館でやりたいんです。だから今年は@JAMとご一緒したい」というようなビジョンのある事務所さんには個人的にシンパシーを感じます。
一方で、「うちには5グループいます。このグループは20人、このグループは50人お客さんを呼べます。好きなグループを使ってください」といわれてしまうと、私としては少し複雑な気持ちになってしまうのです。なぜならそこに戦略やビジョンが見えてこないからです。なぜ@JAMに出したいのかが分からないですし、偏見かも知れませんがアイドルを総じて“数字”としか考えていないように感じてしまうんです。
@JAMに出演することによるお客さんのメリットや、その子たちのメリットを突き詰めて考えていない。「将来的に、今いる50人のお客さんをどうにか80人にしたい」と言われれば、「ご一緒しましょう!」となりますが、「50人呼べるから出させてください」という発想は、所属タレントに対しても失礼なのでは? と思ってしまうのです。
――一時のビジネスを成功させる意味では、集客力のあるアーティストがいいはずですが、中長期的な戦略への共感を重要視しているのですね。
結果的に50人を呼べるか呼べないかに、保証や契約があるわけではありません。50人といって10人しか呼べなかったケースは山ほどありました。結果としてその責任は、イベント主催者の私が負います。そのイベントがどんな見え方をしたのかも、最後は自分の責任として返ってきます。
ですが私は、事務所さんが集客のことを考えなくてもいいと思っています。私たちがそのアーティストを素晴らしいと思っているから出演してもらう。それだけでいいんです。
――イベントを作る側の戦略、信念があるかが判断基準だと。
イベントを作る側は、アーティストをどう組み合わせれば相乗効果を生むかも考えなければなりません。もし私がアニソンを歌うアーティストを「この人は集客力がありますが、どうしますか?」と売り込まれれば、「はい、お願いします」と言うかもしれないです。一方でアイドルの場合は、少し違います。これまで多くの時間をアイドルプロデュースに費やし、勉強をしてきた自負があります。
事務所が何人呼べますと言おうが言うまいが、私が良いと思うかどうかに信念を持ち、イベントを作ります。今は、勝てるものを用意して戦う感じです。
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