世界で最も稼ぐ女性アスリート、大坂なおみ選手にスポンサーが苦悩する事情:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
全米オープン3回戦で敗退した大坂なおみ選手の記者会見が話題になっている。再休養を検討しているようだが、スポンサーなどは「ビジネスだから」と割り切れない複雑な事情がありそうだ。それは……。
「ビジネスだから」と割り切れない難しさ
今回のランキングで興味深いのが、テニスのロジャー・フェデラー選手だ。年収は約9000万ドルだが、そのうちトーナメントなどの賞金からの収入はわずか0.03%。ほぼすべて、プレー以外のところで稼いでいることになる。そうなるともはやアスリートなのかタレントなのかが分からなくなってしまいそうで、スポンサーのためだけにプレーを続けている感じすら受けてしまう。
大坂なおみ選手のように、テニスやゴルフをプレーする個人スポーツで所属チームがないアスリートは、すべての責任を自分で抱えなければならない現実がある。もっとも、だからこそ、その看板一つで、多額なスポンサー料などを受け取り、所属チームなどの制約のない中でエンドースメントも受けやすい。
だがその一方で、一人で戦う孤独感や責任感は、もしかしたらいわゆる「真面目」な選手ほど強いのかもしれない。全豪オープンで顔にとまった蝶を穏やかに助ける優しさも、一人でプレッシャーを一身に背負う選手のイメージとはギャップがあると思うのは筆者だけだろうか。
しかし、スポンサー企業からすれば、その不安定さには心配を抱かざるを得ないだろう。特にプレー中に悪態をつくのは、スポンサーのイメージにも影響を及ぼしかねないからだ。
大坂なおみ選手の一連の騒動は、多額が動くスポーツ業界の暗部を浮き彫りにしたような気がしてならない。「ビジネスだから」と割り切れないアスリートたちへの投資の難しさがそこにはあるのだろう。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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