「世界一の現場力」を犠牲にする、無責任トップの罪:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
「工夫してほしいですね、現場で」──というのは、若者向けワクチン接種センターの混乱ぶりを見た小池都知事の言葉だ。現場が必要なリソースにアクセスする権利も、意思決定できる裁量権も与えることなく、現場に責任のみを押し付け犠牲にするような動きが、いたるところで起きている。そんな中、リーダーが自覚すべきこととは──?
現場が一流であることは、国際的な調査でも確認されています。
2012年に行われた「OECD国際成人力調査(PIACC: Programme for the International Assessment of Adult Competencies/Survey of Adult Skills)」で、日本人が全ての項目で堂々のトップ。世界1位です。
PIACCは24カ国・ 地域が参加した大規模な国際調査で、「経済のグローバル化や知識基盤社会への移行に伴い、雇用を確保し経済成長を促すために国民のスキルを高める必要がある」との認識から行われました。
対象は16〜65歳の成人で、日本では住民基本台帳から層化二段階抽出法で1万1000人を抽出。うち5200人が参加し、調査項目は「仕事や日常生活で必要とされる汎用的スキル」として次の3つを調査しました。
「読解力」
社会に参加し、自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発展させるために、書かれたテキストを理解し、評価し、利用し、これに取り組む能力
「数的思考力」
さまざまな状況の下での数学的な必要性に関わり、対処していくために、数学的な情報や概念にアクセスし、利用し、解釈し、伝達する能力
「ITを活用した問題解決能力」
情報を獲得・評価し、他者とコミュニケーションをし、 実際的なタスクを遂行するために、デジタル技術、コミュニケーションツール及びネットワークを活用する能力
調査方法は250人の調査員が対象者の自宅に訪問し、専用のPCで2時間超かけて行うという、日本の社会調査では例のない形態で行われました。層化二段階抽出法は統計的に確立されているサンプルの選出方法で、結果は「たまたま選ばれた人たち」のものではなく、日本人全員の傾向を示していると理解してください。
そういった手の込んだ調査で、日本の労働者の質は世界トップであることという結果が出ました。「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」の3分野全ての平均得点で、日本はトップ。 堂々の1位を獲得したのです。
ちなみに、コロナ禍でリーダーが高く評価されたドイツは「読解力:15位」「数的思考力:12位」「ITを活用した問題解決力:11位」。日本、圧勝です。
私はこれまで取材や講演会で訪れた全国津々浦々の“現場”で、「現場の力」に何度も感動し、「日本というのは、現場で愚直に働く人たちに支えられているんだなぁ」と何度も痛感してきました。
しかし、その現場の力を生かしきれていない無責任なリーダーがのさばっているのが、今の日本です。
そもそも明確なビジョンがない。そのビジョンを遂行するための準備もない。おまけに現場のマネジャーに裁量権も与えていません。
関連記事
- 日本の賃金、低すぎる? 国際比較と春闘の推移から考える“豊かな日本の残像”
日本の平均賃金の相対的な下落が止まらない。諸外国との比較による低下が指摘されて久しいが、主要先進国(G7)の中で最下位である。本記事では、日本の賃金について国際比較と春闘の推移から考える危惧を解説する。 - 家電メーカー7社から学ぶ、 ヒット商品を生む経営【まとめ読み】
毎年のように新製品が発表され、新メーカーが設立される市場で戦う家電メーカー。顧客に選ばれ、進化を続けるメーカーの強みとは何なのか。バルミューダ、アイリスオーヤマ、日立GLSなど7社の取材記事を通して、ものづくりと経営の秘訣を探る──。 - 崩壊寸前だったVoicy 離職率67%→9%に立て直した人事責任者が語る“人事の本質”
日本の音声コンテンツ市場の先頭を走る、音声メディア「Voicy」。3カ月で利用者数が2.5倍になるなど、コロナ禍で驚異的に成長している。しかし、たった1年半前は離職率が67%にのぼり、組織崩壊寸前だったという。そんな中でVoicyに入社し、抜本的な人事改革を行ったという勝村氏。一体どのような改革を行ったのか──? - 新卒応募が57人→2000人以上に! 土屋鞄“次世代人事”のSNS活用×ファン作り
コロナ禍で採用活動に苦戦する企業も多い中、土屋鞄製造所の新卒採用が好調だ。2020年卒はたった57人の応募だったが、21年卒は2000人以上が応募と、エントリー数が約40倍に急増した。その秘訣を聞いた。 - 日本組織に「金メダルかじり」的おじさんがはびこるワケ
「金メダルかじり」のような敬意の欠けた行いをする人はスポーツ界だけでなく、企業などにも存在する。自分より“上”の人にはできない言動を、“下”と見下した人にはしてしまう。このようなことはなぜ起きるのか──?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.