ロードプライシングは成功だったのか? 大幅値上げを目論む首都高速の料金改定案:高根英幸 「クルマのミライ」(2/5 ページ)
渋滞、それも有料道路での渋滞が大嫌いな筆者にとって、オリンピックを機に割増料金が課されていたこの2カ月間は、振り返れば「1000円アップはむしろ割安だったかも」と思わせるような環境だった。しかし、だまされてはいけない。ロードプライシング制の正式導入に向けた実験的な施策なのだ、今回は。効果を認めてしまうと首都高速は「しめしめ」と思って正式導入に向けて動くに違いない。
移動の時間短縮には価値がある
そもそも高速道路とは、その名の通り高速で移動できる道路だ。つまり渋滞してしまうと、その価値をほとんど失ってしまうことになる。実際には渋滞部分が全行程の一部分であれば、渋滞で一時時間をロスしたとしても、トータルで時間短縮になれば高速道路としての役割は保たれるため、渋滞区間を我慢しているドライバーが多い、という状況のようだ。
しかし実際には時間短縮になったのか怪しい状況も生まれる。お盆など帰省の時期には、何十キロもの渋滞が発生することが珍しくない。家族で荷物を伴っての長距離移動となると、列車や航空機などを使うのは大変という人が、クルマを使って渋滞に遭うことを覚悟で故郷へと向かう。
首都高速や高速道路が将来的に導入を検討しているロードプライシング制は、交通量が多い時には料金を上昇させ、高速道路への流入を減少させるものだ。これによって渋滞の悪化を防ぐことで利用者の利益を確保する、というのが名目上の理由だ。これはロードプライシング(そもそも有料道路の時点でロードプライシングなのだ)というより、ダイナミックプライシングだろう。
しかし今回のオリパラ開催時における首都高速のロードプライシング制導入は、オリパラ関係車両の移動を確実にするための渋滞回避策であって、一般市民に首都高速の利用を制限してもらうためのものだった。「首都高速を使ってくれるな」というメッセージの1000円アップであり、入り口閉鎖などの制限だったのだ。
前述の通り筆者は、オリパラ開催期間中に往復8回程度、首都高速を最大額となる区間で利用したが、これぞ高速道路と思わせるほどの快適な移動を実現してくれた。
しかし一般道はその分、渋滞していたかというと、そのような印象はない。緊急事態宣言中であり、オリパラの各競技は無観客で開催されたことから、人の移動が最小限に抑えられたことも影響したのだろう。価格を引き上げたことから首都高速を敬遠したドライバーが一般道に流出しても目立った渋滞は起こっていなかったようだ。(追記:ナビタイムが調査結果を明らかにしているが、規制開始こそ一般道での渋滞が目立ったものの、開催期間中の通過時間の増加は軽微であった。また期間中、何度かGoogleマップで都内の交通状況を確認したが、連日での目立った混雑は確認できなかった)。
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