ホテル1室のアメニティー、清掃費用は一体いくら? ホテルの気になる“原価”あれこれ:瀧澤信秋「ホテルの深層」(3/5 ページ)
コロナ禍で価格が下がっているホテル利用料金。そもそも原価はどのくらいなのだろうか。運営会社に取材を試みた。
ホテルの原価はいくら?
さて、前置きが長くなってしまったが、果たしてホテルの原価はいくらなのだろうか。イメージや非日常感が重要な業界にとって、専門誌ならまだしも一般メディアには答えにくいかと思いつつ、いくつかのホテル運営会社へ問い合わせてみた。
10の運営会社に質問したところ、6社からは回答NGという答えがあった。単にイメージという部分から、裏側の数字は出したくないとの当然の思いや、委託している清掃業者との契約上の守秘義務などという理由も見られた。
一方、4社は「匿名で」との条件で情報を開示してくれた。今回は、大きく「リネン・アメニティー類」「人件費」と分けてまとめてみた。分母が大きくないこともあり、おおよその算出としたが、一つのメルクマール的な参考数値として捉えていだたければと思う。
リネン・アメニティー費用
ホテルのリネンといえば、タオル、バスマット、枕カバー、シーツ、掛け布団カバーなどザッと思い浮かぶが、回答では専門の業者が都度供給する「リネンサプライ」費ということだった。以下の表記は1人分となる(シングルルームなら1室分となりツインルームなら単純に数字を2倍したものが1室分)。
高級ホテルの場合、リネン類1人分で950円だった。バスローブなどかなり高いようだ。高級ホテルとビジネスホテルでは圧倒的にアメニティー費用で差が出る。お茶やコーヒーなどもクオリティーを重視するが、高級ホテルではアメニティー費用だけでも1人分250円程度であった。
一方、ビジネスホテルのシングルルームは、リネン類が700円、アメニティー費用が80円程度であった。
人件費
さて、最も重要といえるのが清掃スタッフの人件費だろう。回答結果としては、ビジネスホテルの1室換算で400〜600円(下記のまとめでは500円とした)であった。中には「派遣会社へは1時間2000円程度払うので1時間で4室程度の処理」という詳しい回答もあった。
例外的であるが、「1室280円」という驚がくの数字もあった。労働問題については本稿では触れないが、ビジネスホテルならではのコストカットともいえるだろうか。
高級ホテルになると1室1500円〜との回答だった。ビジネスホテルに比べて客室面積も数倍となれば比例するのは当然か。
今回の回答をまとめてみると
・高級ホテル:リネン・アメニティー1180円+人件費1500円=2680円
・ビジネスホテル:リネン・アメニティー780円+人件費500円=1280円
という結果であった。これらの数字は、今回の限られたリサーチにおける一例で、もちろんホテルによりかなりの差がある部分でもある。筆者が以前とある高級ホテルで聞いた話では、計4000円以上というところもあった。いずれにしてもホテルの業態やスタンスにより差が出る部分といえる。
関連記事
- バブルの名残 温泉街の「大型施設」が廃墟化 鬼怒川と草津の違いと「大江戸温泉物語」の戦略
コロナ禍がもたらす温泉街への影響は甚大だが、「温泉の魅力」として考えさせられるのが“街づくり”という点だ。筆者は「施設そのもので集客できる強い宿は例外的で、温泉地の魅力自体が集客を左右する」と指摘する。 - “はがれにくい”けど“はがしやすい” なぜ業界トップのアヲハタは2年かけて「のり」を開発したのか
アヲハタジャムのラベルが剥がしやすいらしい。なぜ? - ホテル業界復活のカギは「朝食」にあり? コロナ禍でヒルトンが進めた115項目の改善
ホテルにとって朝食はキモ。“朝食でホテルを選ぶ”人も多いだろう。人気の尺度という点で朝食の良しあしは注目されるポイントになっているのは事実だ。筆者はソーセージと焼き鮭に注目する。 - コロナ禍でも黒字のアパホテル 常識破壊の”強さ”と悲願の10万室が生んだ“功罪”
アパホテルが2021年5月10日に創業50周年を迎えた。いまや日本を代表するホテルブランドとして圧倒的な知名度を誇る同社。コロナ禍の中、2020年11月期連結決算で黒字を確保したという発表は、ホテル評論家としても衝撃的だったと筆者は語る。 - 寮発祥のドーミーインが「大浴場」をどんどん展開するワケ 手掛ける「和風ビジネスホテル」とは?
「宿泊施設のカテゴリーボーダーレス化」が進んでいるが、ドーミーインのサブブランド「御宿 野乃」もそのひとつだろう。 - 爆増した3万ブース超のカプセルホテル “ブーム終焉”の理由はコロナ禍だけじゃなかった
近年、訪日外国人旅行者の激増により宿泊施設不足が露呈、数多くのホテルなどが誕生した。施設数で群を抜いていたカテゴリーが「簡易宿所」といわれる施設で、その代表格が「カプセルホテル」や「ホステル」と呼ばれる宿泊施設だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.