次のキャッシュレスはB2B? 企業間取引にカードは使えるのか(2/2 ページ)
B2Cのキャッシュレス化が進みつつある一方、企業間取引、B2Bのキャッシュレス化は進んでいない。特に、ほとんど進んでいないのが仕入れなどの企業間取引のキャッシュレス化だ。
仕入れはキャッシュレス化されるのか?
小口経費についてはB2Bでもキャッシュレス化の糸口が見えてきた。しかし、ほとんど進んでいないのが仕入れなどの企業間取引のキャッシュレス化だ。「まだそこは銀行振込が多い。サプライヤーの要望もあるが、現金を使っている理由は慣習。使える環境を作っていくのがわれわれの役割だ」(アメリカン・エキスプレスの谷川氏)
実のところ銀行振込でも現金を扱うわけではない。経産省の定義次第だが、これもキャッシュレスでは? とも思うが、違いの一つは売上回収の早期化だ。
日本の商慣習では、商品などの納品とともに請求書を送り、月末で請求額を集計して、翌月末などにまとめて振り込むのが一般的だ。業界によっては、振込時期が半年後になることもあり、特に未だに残る約束手形を使った取り引きでは、売上金の回収にかかる日数(支払いサイト)は100日以上が平均だといわれている。
支払いサイトが長いのは日本企業の特徴だといわれており、これが資金繰り負担を高めているという指摘が以前からされていた。欧米では、小切手に代わり銀行振込やクレジットカードが浸透してきている。クレジットカードで企業間の支払いをした場合、月末を待たずに決済を行っても、実際に資金が必要になるのはカードの引き落とし日だ。払う側は支払いを遅くでき、受け取る側は早期に売上金を回収できる。このことが企業のキャッシュフローの改善につながっているという。
一方でクレジットカードを使った仕入れには課題もある。平均して3%を超えるという取り扱い手数料もその1つだ。10月からは銀行振込手数料も引き下げられ、大口決済については銀行振込のほうがコストが安い。アメリカン・エキスプレスの谷川氏は、「業態によって異なる。B2Bならではの手数料体系は持っているので、その中で安い手数料も用意している」と話すが、具体的な料率の目安は明らかにしない。料率が仮に1%であっても、300万円の支払いに3万円の手数料がかかるわけで、コストに厳しい中小企業経営者が銀行振込を選ぶのも分かる。
どの企業でも使える銀行振込とは違い、クレジットカード決済の場合、払い手も受け取り手も対応しないといけないのもネックだ。ネットサービスであれば、企業間でもカード決済が普及しているが、従来産業ではわざわざ加盟店になるのは相応のメリットが必要だ。
決済額の上限もハードルになる。法人カードであっても与信額は数百万円といった場合が多く、多額の企業間取引には使えない。急成長スタートアップでは、AWS(Amazon Web Services)などのクラウドサービスへの支払い額にカードの与信額が追いつかず、苦しい思いをしたという声も聞く。
クラウド会計サービスを提供するfreeeは、この冬に最高3000万円という限度額を持った法人カードを提供する予定で、こうしたニーズに対応する(記事参照)。一方で、アメリカン・エキスプレスの谷川氏は与信額について、「柔軟な与信をしている。一定の設定はしていない。企業からできるだけ情報をいただくことで可能な限り応えていく」と話すにとどめた。
B2B決済において、会計システムとの連動、キャッシュフローの改善など、クレジットカードを使うことのメリットは大きい。一方で、手数料や与信額など不透明な要素が大きく、企業が仕入れなどにクレジットカードを利用するまでの道のりはまだ遠そうだ。
関連記事
- 企業の意識を「性善説」に変えていけ 経費精算クラウドトップ「コンカー」の三村社長
コンカーは国内経費精算市場のトップ企業だ。特に大手企業への導入で強く、金額ベースのシェアでは7年連続でトップ、シェアは50%を超えている。コロナ禍でデジタル化への関心が急上昇する経費精算。コンカーは、経費精算の未来をどう捉えているのか。三村真宗社長に聞いた。 - 「経費精算不正」見つけたことある7割 「接待交際費」に危機感
経費精算クラウドサービスを提供するコンカーは日本CFO協会と共同で、日本企業の財務幹部を対象とした「経費精算における不正リスクの実態調査」を実施した。不正リスクがあると考える人は7割を超え、特に「接待交際費」(37%)、「出張費」(26%)にリスクが高いと感じる人が多い。 - コロナでも出社? 経理の完全リモートワークを阻む壁
コロナ禍によってリモートワークに移行した企業は数多い。緊急事態制限が解除された今も、企業の働き方は「全員出社」から「出社とリモートワーク併用」が増加している。しかし、仕事によってはなかなかリモートでの業務が難しい。代表的な職種の1つが経理だ。 - 政府の”キャッシュレス推進”ウラの狙い 改善したい“不名誉すぎる”実態とは?
消費税増税からまもなく1カ月を迎え、キャッシュレスへの関心の高まりが顕在化してきた。政府が”身銭を切って”までキャッシュレス決済を推進するのは、異例とも思われる措置だ。その背景を理解するには、巷(ちまた)で言及されているような「インバウンド需要」や「脱税防止」以外にも押さえておかなければならない重要なポイントがある。それは、アンチ・マネーロンダリングだ。 - 2020年のキャッシュレス業界 けん引したのは結局クレカ
20年のデータが出そろっていない段階ではあるものの、18年以降にキャッシュレス決済比率を押し上げたのはクレジットカードの利用増にある。PayPayが100億円規模の大規模キャンペーンを立ち上げ、いわゆるキャンペーン合戦によるシェアの奪い合いが激増したが「一番利用が多いPayPayでさえ全キャッシュレス決済の1割にも満たない」という声を聞いている。 - 消える月謝袋 会費の支払いもキャッシュレス、会員管理も行う「会費ペイ」が急成長
習い事の月謝といえば、毎月封筒に現金を入れて手渡しし、ハンコを押してもらう月謝袋を思い出す。しかし、コロナ禍の非接触ニーズ増大にともない、こうした会費の支払いもキャッシュレス化が急速に進展している。メタップスペイメントが提供する「会費ペイ」は、個人や中小事業者を中心に利用する加盟店が3000店を突破した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.