20年経った確定拠出年金なぜ普及しない? 利用者は成功体験、複雑さが課題(3/4 ページ)
確定拠出年金制度ができてから20年が経過。その間「老後2000万円」問題などの影響もあり、自助努力で老後に備えようという意識の高まりから、利用者は940万人に達した。しかし、これはまだ労働人口の10%に過ぎない。DCを利用している人が成功体験を得ている一方、制度の複雑さから利用を足踏みしている人も多くいるという課題が見えてきた。
最大のメリット、税優遇が理解されない
DC利用者にとっても課題はある。その1つが複雑な制度設計だ。複雑な制度改正がたびたび行われて、専門家でもなければ仕組みを理解するのが難しい。身近に教えてくれる人もおらず、分かりにくさが利用者を遠ざける原因になっている。
制度の難しさに関連するのが税優遇だ。DCでは、掛金を所得から控除できる優遇措置が設けられており、つまり支払う所得税が減る。これは、DCの最大のインセンティブとされているが、実はうまく機能していない。税メリットを実感している人は32%に過ぎず、効果的なインセンティブになっていない様子がうかがえる。
DCの良い点は税優遇だと回答した人に限っても、それを実感していない人は多い。理由は「税金の仕組みが分からない」(25%)、「税金の仕組みは分かるが自分がいくら税金を払っているのか分からない」(45%)、「所得が小さい/ない」(36%)というものだった。源泉徴収が普及しており税処理を会社が代わりにやってくれる日本では、自分が払っている税金に無頓着になる。税優遇の難しさが表れた形だ。
これに対し、米英では税優遇に加えて上乗せ掛金の仕組みをとっている。これは、例えば1万円を掛金として拠出すると、会社や政府が別途5000円を上乗せで拠出してくれるという仕組みだ。「出せば出すほど上乗せ金額も大きくなるので、自助努力のインセンティブとしては直感的で分かりやすい」と浦田氏は評価する。
【訂正:9/29 17:30 *初出時、米英では「税優遇ではなく」と記載していましたが、正しくは「税優遇に加えて」です。お詫びし訂正いたします。】
一方で日本で実行するとなると、制度上の難しさもある。所得税を減らす代わりに税金から上乗せ拠出しても収支としては同じだが、政府が拠出するには議会の承認を得なくてはならないからだ。
「政府が上乗せする話だと、予算を使う話になる。議会の議決を経て決めなくてはいけないので、毎年議決が必要になる。制度の永続性が問題になるといわれている。ただし、税金を払っていない低所得の人たちにも恩恵が及ぶので、広範にメリットがあり、優れている」(浦田氏)
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