立民「年収1000万円以下所得税ゼロ」 1番トクするのは高収入の独身ビジネスマン?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/4 ページ)
衆院選マニフェストの中でも目を引くのが、立憲民主党の掲げる「年収1000万円未満世帯の所得税免除措置」だ。立憲民主党の枝野代表は「経済を良くするには、分厚い中間層を取り戻し、あすの不安を小さくすることが大事」と発言しており、実現すれば家計の負担が減少すると巷でも歓迎する意見も散見される。
行動経済学のスパイト効果
確かに高収入者の減税幅が大きいとしても、中間層も負担が減ることは事実であり、導入のメリットはあるという見解もある。しかし、行動経済学の観点ではそのような合理的な思考を人がとることは難しく、分断を生む恐れがある。
ここで、行動経済学上のスパイト効果を挙げよう。スパイト効果とは「他人の利益を失わせるために、自己の損失をいとわない」とする行動を指す。この文章だけをみると、かなり性格が悪いようにも思えるが事例で考えると、おそらく多くの人が同じ心理状況になると思われる。
例えば、押すと100円がもらえるボタンがあるとする。しかし、そのボタンを押すと隣の人が1000万円獲得する。この場合、あなたはボタンを押すだろうか。ボタンを押せばあなたは確実に100円を得ることができ、資産は増加するため、ミクロな視点では押す以外の選択肢は考えられない。しかし、筆者を含めて「隣の人に1000万円をあげるくらいなら、押さない」という非合理な選択を取る人もいるだろう。
そのように考えると、実際に1000万円未満の世帯を一律に所得税減免したときに起こると考えられるのが、自分たちよりも得をしている高収入の人々へ、負の感情を蓄積させてしまうことだ。つまり枝野氏がターゲットと置く中間層は、実際には恩恵を受けているはずなのに恩恵が少ないことに対して不満を募らせる者が増加し、政策としての効果に疑問符がつく可能性が高いということになる。
トクする独身高収入、ソンする共働き子育て世帯
他にも問題となるのが、この制度導入において、最も得する属性が独身の年収1000万円の人々となることだ。反対に、夫婦共働きで子育てをするような世帯では、所得税免除の恩恵を受けられない家庭も出てくる。
今回、所得税免除の要件として挙げているのは、世帯年収が1000万円未満であることだ。しかし、世帯年収1000万円という額は、生活コストや生活コストの高い東京都内における共働き・子育て世帯において決して珍しくない収入帯である。
東京都福祉保健基礎調査において5年ごとに調査されている「東京の子供と家庭」のデータによれば、2017年度における小学生までの子供を養育する共働きの両親世帯のうち、28.5%が世帯年収1000万円を超えている。
一人ひとりの給与所得者をみると、年収1000万円を超えている人々は数%しか存在していないが、世帯ベースで所得を区切ると、共働きの夫婦がそれぞれ平均年収レベルか、それより少し多い収入を得ているだけで所得税免除を受けられないことになる。都内においては、世帯年収1000万円でも2子を育てるだけで家計がカツカツとなるケースもあるのだ。
独身であれば年収1000万円まで免除される税が、共働きの場合は2人で1000万円までしか免除されないという状況となってしまうのは、コロナ禍で少子化が加速している足元の状況からいえばいささか不都合が生じるのではないかと筆者は考える。
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