日本の“低賃金・人軽視”の悪夢 ブラック企業は「辞めたくても辞められない」:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
コロナ禍で生活不安が高まり、ブラック企業を「辞めたくても辞められない」という人が増えている。ブラック企業には、従業員を低賃金で長時間働かせ、労働基準法を守らぬ企業も多い。「働く人にどう報いるか?」という点について、後れを取っている日本はこの先、どうなっていくのだろうか──。
思い起こせば、「ブラック企業」というセンセーショナルな言葉が、一般的に使われるようになったのは13年頃だったと記憶していますが、12年度に全国の労働基準監督署が、労働基準法違反で是正指導した企業は1312社で、支払われた割増賃金の合計額は145億9957万円。昨年度は、1062社、69億8614万円です(厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果」より)。
減少傾向にあるといえ、いまだに労働基準法を守らない、法をわざと知らないふりをする企業が1062社もあるとは驚きです。実際にはその数十倍あるに違いありません。
そもそも、「日本株式会社」自体が「人」を軽視しすぎです。
この連載で何度も書いている通り、日本の賃金は10年以上、上がっていません。経済協力開発機構(OECD)の分析では、00年を100とした場合、主要7カ国(G7)で日本だけがマイナス、すなわち00年の賃金水準を下回っていることも分かっています。
一方で、日本の超富裕層(純資産5000万米ドル超)は世界最大の伸び率を記録(クレディ・スイス「2016年度グローバル・ウェルス・レポート」)。コロナは「全く影響を受けない人」と「受ける人」の格差を浮き彫りにしましたが、今後はますます「一部の人だけが潤っていく社会」が続いていくことでしょう。
新政権は富裕層と貧困層の格差を縮め、「中間層を分厚くする」ということですが、その「中間層」とはどの人たちを言っているのでしょうか。その結果として、ブラック企業は淘汰されるのでしょうか。
新しい経済政策には期待したいところですが、その前に「法律を守らない企業」を徹底的に調査し、働く人を守るための罰則を企業に科してほしいです。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。
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