日本の“低賃金・人軽視”の悪夢 ブラック企業は「辞めたくても辞められない」:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
コロナ禍で生活不安が高まり、ブラック企業を「辞めたくても辞められない」という人が増えている。ブラック企業には、従業員を低賃金で長時間働かせ、労働基準法を守らぬ企業も多い。「働く人にどう報いるか?」という点について、後れを取っている日本はこの先、どうなっていくのだろうか──。
本来、働くという行為は、人の尊厳を守るための行為です。人は生きるために働き、働くことは人生を豊かにする最良の手段です。なのに、今の働き方に「尊厳」はありません。ブラック企業は放置し続けられ、働くことへの「報い」が、あまりにも、あまりにも、本当に、あまりにもひど過ぎます。
もっともどんな組織であれ、全て良し、ということはありません。人間関係での悩みは尽きないでしょうし、人事評価に納得できる人はごくわずかです。しかし、冒頭の調査にあるように「ブラック企業=サービス残業」という回答が圧倒的に多いのは、異常としかいいようがありません。いったい何のための労働基準法なのか?
海外では労働基準法に違反した企業への厳しい罰則化が当たり前ですが、日本では無し。やっと罰則規定ができるかと思いきや、「月100時間未満(残業)であれば問題なし」と、過労死に国がお墨付きを与えるような結論に至る始末です。
ハラスメントについても、パワーハラスメントの防止を企業に義務付けることが法律で決まり、やっと昨年6月から施行されましたが、そこに罰則はありません。
海外では10年以上前から法制化され、厳しい罰則も科せられています。
例えば、フランスでは刑法の中で「セクハラ罪」が定義され、罰則規定が設けられたのは1992年です。2002年には、職場におけるモラルハラスメント防止策を盛り込んだ「社会近代化法」が成立し、モラルハラスメントによる補償も定められました。「刑法」でもハラスメントが定義され、「懲役2年と罰金3万ユーロ」の刑罰が定められています。
日本同様に、パワハラが問題視されている韓国では、19年に「職場でのいじめ行為の禁止」が法制化されています。ハラスメント対策が不十分な雇用主には、最長3年の禁錮刑や最高3千万ウォンの罰金が科せられ、労働者に健康被害が生じた場合の賠償請求権も保証されています。
「働くことにどう報いるか?」はその国の「人」への本質的な価値観を物語っている。つまり、日本は「人」を大切にしていないのです。実に悲しいことではありますが、「人権」という言葉が日本には存在しない、圧倒的な後進国といわざるをえません。
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