元西友のプロマーケターがうなる、オーケーストアの差別化戦略:長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」 リテール×マーケ【前編】(2/4 ページ)
西友、ドミノ・ピザジャパンなどでCMOを務めた“プロマーケター”の富永朋信氏と、東急ハンズ・メルカリなどでCIOを務めた長谷川秀樹氏が対談。富永氏が語る、オーケーストアを研究すべき理由と、小売りに求められる「差別化戦略」とは──?
結局、小売りは立地と品ぞろえでほぼ決まってしまうのか
長谷川: 差別化が売り上げにつながると思う一方で、結局、小売りって立地と品ぞろえだけでほとんど決まってしまうのではないかという仮説もあります。
都市部で行動圏内にたくさん店があれば、「今日はちょっといい魚が食べたいからsakana bacca行くか」という顧客行動が成り立つ。でも、少し田舎に行くとそもそも店が少ない。顧客も固定化しているかもしれません。そういった環境では、どうすれば売り上げが上がるのでしょうか?
富永: スーパーの利益って普通、一桁%前半のところで勝負しているのですが、そういう環境でも例えば1%上げることはできると思います。
POPって放っておくと乱立してしまうんですよね。「今だけお得」「店長一押し」「特別な生産者が作った」、店舗も商品部もいろいろな理由で推したい商品があるわけです。結果、ギラギラした店になって何が言いたいのか分からなくなってしまう。
そこを、マーケティングがフィーチャーする商品の判断基準を定め、1つの棚でフィーチャーするのは3つまでなどと徹底すれば、目立つべきものがちゃんと目立つ。売れる商品と売れない商品のメリハリがつくし、品切れ、発注のコントロールもしやすくなる。どんな環境にあっても魅力的な店舗にできるんです。
立地と品ぞろえでほぼ決まるということは否定できませんが、例えばこのように商品のフィーチャー戦略を作り、運用を徹底することで勝負の1〜2%を稼げる店にできます。
小売りってメーカーの言いなりになってない?
長谷川: 最近の小売りって、メーカー頼りが行き過ぎていませんか? バイヤーが意思を持って商品を仕入れているならいいですが、メーカーや仕入先の言いなりになってしまっているケースも多いのではないでしょうか。
富永: それはめちゃくちゃあります。由々しきことだと思いますね。メーカーにすれば新商品を投入するときが勝負なので、「たくさんCM打つから売れますよ」と言って各店舗に納入していく。それにより同じ商品がいろんなお店の店頭でフィーチャーされることになるので、小売りからすると差別化の逆、同質化が進んでしまう。ちょっと辛辣な言い方ですが、そこまで考えが回らずに、メーカーの口車に乗ってしまうのはダメなんですよね。
長谷川: メーカーとの付き合い方、富永さんだったらどうしますか?
富永: まず、「メーカーさんの中で、うちってどういうポジショニングなの?」と聞き、それに見合った品ぞろえを提案してほしい、と伝えますね。
次に、上級編ではあるのですが、メーカーのブランドマネジャーやカスタマーマーケティングの担当者と引き合わせてもらい、「店頭でのCall To Action(行動喚起)は大事だよね、だから新商品のマーケティング戦略を一度プレゼンしてくれ、それに合ったインストアマーケティングを提案するから」みたいな提案ができると、メーカーと一味違った付き合いができるようになります。
チラシの紙面を切り売りしたり、エンドキャップでリベートをもらったりって、すぐにお金が入るのでついやりたくなるんですけど、それをやってるうちは絶対原価なんか下がらないですよね。やっぱりバイヤーの仕事は、何を売るか信念をもって選び、いくらで売るか信念をもって決めて、それが実現するように価格交渉することじゃないですか。いくらメーカーが強くてのれんに腕押しでも、それを放棄しちゃったらバイヤーじゃない。
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