元西友のプロマーケターがうなる、オーケーストアの差別化戦略:長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」 リテール×マーケ【前編】(3/4 ページ)
西友、ドミノ・ピザジャパンなどでCMOを務めた“プロマーケター”の富永朋信氏と、東急ハンズ・メルカリなどでCIOを務めた長谷川秀樹氏が対談。富永氏が語る、オーケーストアを研究すべき理由と、小売りに求められる「差別化戦略」とは──?
小売りが差別化するにはプライベートブランドしかない?
長谷川: 「小売業が差別化をするにはPB(プライベートブランド)しかない」、という人もいます。NB(ナショナルブランド)を扱っている段階では、いくら差別化してもちょっとなんか違う程度。商品と立地でほとんど決まるのなら、PBを作らないと本当の意味での差別化にはならないのではないでしょうか。富永さんはどうお考えですか?
富永: 良いPBを持つことは強力な差別化方法ですが、ワンアンドオンリーではありません。消費者行動論に「バイイングインパルス」って言葉があるんですよ。衝動買いを誘発する「買って買ってビーム」が売り場から出ている、という、ちょっと聞くと「都市伝説か?!」と言いたくなるものなんですけど、すごくコンディションの良いスーパーに行くと、それが実感できるんです。
最近も近所のスーパーで、ブロッコリーの陳列がもみの木みたいになっていて非常に美しく、「これ、バイイングインパルス出てるわ」と。全ての商品に一番美しく見える角度ってあるんですよね。何の変哲もないショーケースが、文字通りショーアップされてるかのようになる。
「最もバイイングインパルスを出すには、プラットフォームとしての店をどう使えばいいのか」という視点で売り場作りを考えると、直感的かつ乱暴ですが、売り上げ10%くらいは変わると思いますね。PB以外にもやり方はたくさんあるんです。
ナショナルブランドだけで戦えるのか
長谷川: バイイングインパルスを出したとして、NBだけで本当に差別化できるのでしょうか。
富永: 大差はつきません。でも、差をつけるとしたらポイントは2点。一つは値付け。もう一つはお茶、ミルク、ビールといったカテゴリーの中でどういった位置付けで商品を押し出すかです。
カテゴリーの中で本命、対抗、当て馬といった位置付けを決めたら、それが意図通りに表現できるようにバイヤーはメーカーと「おたくの商品を大穴にしたいので、こんだけ陳列保証するんで一カ月でもいいので安くできませんか」という交渉をする。もしかしたら有利なプライスにできるかもしれない。品ぞろえが同じなら微差ですが、見え方は全然違ってきます。
行動経済学の話になりますが、新聞をとることを想像してください。2つのオプションがあります。1つは毎月500円でWeb購読ができます。もう1つは毎月5000円でWeb購読+紙の新聞が来ます。どっち買います?
長谷川: 500円の方。
富永: では、オプションが3つになります。500円と5000円の間に、毎月紙の新聞だけで4850円のプランが追加されます。どれを選びますか?
大半は500円のままなのですが、一部5000円を選ぶ人が出てくるんです。4850円と5000円を比較すると150円差。本来500円するWeb購読が150円で付くなら、5000円の方がお得だという考え方です。
2つしか選択肢がないときは、500円が基準値になって5000円は高すぎるとなる。でも3つになると、4850円が基準値になって5000円はそんなに高くないという意思決定ができる。面白いことに、真ん中の4850円は誰も買わない。当て馬の選択肢を入れることで、5000円を選ぶ人が出てくるのです。
そういうのがバイヤーの仕事ですよね。どういう商品をどう当て馬にして何を動かしていくかが、品ぞろえの妙だと思うんです。「NBだけで勝負するのは面白くない」と言っている人には、ここまでちゃんと考えてるかってことを問いたいです。
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