アメリカのスタバ時給1900円から考える「安い日本」:専門家のイロメガネ(4/5 ページ)
コーヒーチェーンを展開する米スターバックスが、米国で時間給社員の平均賃金を来夏に平均で17ドル、現在の為替レートで約1900円まで引き上げることが報じられた。日本でも高齢化によって人手不足は深刻な状況にあるが、賃金水準は30年前から横ばいだ。一方で、日本は食料の半分を、エネルギーの大半を輸入に頼っている。現在の傾向が続けば賃金は低く物価は高い状況、つまり「安い日本」から「貧乏な日本」になってしまう日も近い。
日本が韓国に追い抜かれた意味
18年、日本が韓国にある指標で追い抜かれた。購買力平価(PPP)で換算した1人当たり名目GDPだ。1人当たりのGDPは豊かさの指標ともいわれることから、豊かさでは韓国の方がすでに上とみなすことも可能だ。
この話は、韓国に追い抜かれたことが良いとか悪いといった以上に重大な意味がある。
韓国は長年、先進国なのか新興国なのか、極めて微妙な立ち位置にあった。例えば資産運用の分野では、運用先を先進国と新興国に分類する。株価指数などを算出するMSCI社が作成する指標では、韓国は先進国のカテゴリではなく新興国となっている。一方で同業のFTSE社が作成する指標では韓国は先進国となっている。
どちらも資産運用の分野では代表的な指数を作成する企業であり、韓国をめぐって二社の判断が分かれている。つまり韓国は先進国と新興国の境目にある国であり、その韓国に抜かれたことは日本が先進国のグループから転落しかねない状況を意味している。
このような状況では、総理の「成長から分配へ」というスローガンが否定されたのも当然だ。
豊かな国は賃金が高い、という身もふたもない事実を認めよう
経済学者の野口悠紀雄氏は、「日本人は国際的に低い給料の本質を分かっていない(東洋経済オンライン 2021/10/3)」と題した記事で、世界各国のビッグマック価格と賃金水準には関連性があり、「ビッグマック指数がある時点での賃金の国際比較をするのに使えることを意味する」と論じている。
ビッグマック指数とは、世界中で売られているマクドナルドのビッグマック価格を基準に、購買力平価を計算したものだ。
※購買力平価……世界各国の物価水準は摩擦がなく貿易されれば同じ物なら同じ価格になる(一物一価)ように為替水準は調整されるという考え方
筆者はこの記事を読んで小躍りしてしまった。筆者自身が6年も前にビッグマック指数と賃金の関係を論じる記事を書いていたからだ。
「なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか?」と題した記事は、その前に書いた「マクドナルドの『時給1500円』で日本は滅ぶ」で受けた批判への解答として書いたものだ。
この記事ではファストフード店の時給を1500円に上げるべきという趣旨で行われたデモについて、そんな高い賃金を払ったらお店がつぶれてしまう、そして全産業の賃金が1500円、つまり最低賃金が1500円になったらあらゆる企業がつぶれてしまうと書いた。
Yahoo!ニューストップに掲載されたこの記事は、多数の読者に読まれ賛同された一方、「この記事を書いた奴は何をバカなことを言っているのか、アノ国もコノ国も最低賃金は1500円以上だ、間違いだから訂正しろ」と批判も多数受けた。
そこで挙げられていたアノ国やコノ国を調べてみると、1人当たりGDPで見ればどの国も日本より豊かな国ばかりだった。そしてビッグマックの価格と1人当たりのGDPも概ね相関している傾向も見て取れた。
タイトルに使ったスイスと比べると、執筆当時のビッグマック価格は日本の2.4倍、1人当たりのGDP(名目・USドル)は日本の2.41倍。一方、日本の最低賃金は15年に全国平均で798円、一番高い東京でも907円と、まだ1000円以下の時期だ。この当時の数字を見てもビッグマック価格とその国の豊かさ、そして賃金にはある程度相関があることが分かる。
この記事では「日本の賃金が他国より安い理由は日本が他国より貧乏だから」と結論づけたが、これは現在の「安い日本」の筆者なりの結論でもある。
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