部下を自殺にまで追い込んでしまう「叱責妄信型」上司が犯している3つの過ち:トヨタ販売店、佐川急便でも(4/4 ページ)
トヨタ販売店や佐川急便など、上司による叱責を苦にして部下が自殺する事件が後を絶たない。こうした背景には、「叱責妄信型」の上司という存在があると筆者は指摘する。なぜ、こうした上司が生まれてしまうのか。そして叱責妄信型上司が犯している3つの過ちとは。
注意してほしいのは、叱責妄信型上司が必ずしも意地悪で部下を追い込んでいるとは限らないことです。むしろ、成果が上がらない状況を何とかしたいと思っている上司ほど、あえて嫌われ役となり、心を鬼にして厳しく部下を叱責してしまうのかもしれません。
しかし、最初は部下のために心を鬼にして叱責していたつもりでも、叱責を繰り返すうちに感情が先走るようになり、自分でも制御できないほどに激高してしまったり、暴言を吐いてしまったりと、職場という外部の目に触れない“密室”の中でエスカレートしがちです。部下のためと思っていたはずが、“密室”の中でいつの間にか、叱責が自身の感情のはけ口へと変わってしまうのです。
冒頭で紹介したような上司のパワハラによる痛ましい事件は、なかなか世の中からなくなりません。叱責妄信型上司は、今も次の被害者を生み出す危険性を秘めたまま、日本中のあちこちの職場に存在しています。
「結果を出しているから」は言い訳にならない
厄介なのは、そんな叱責妄信型上司の中には、好業績を上げている人もいる点です。中には「成果を出しているのだから、人としての行いは認められないが、管理職としては優秀だ」と評価して、かばおうとする会社もあるかもしれません。生徒に対するひどい体罰や罵声などのパワハラがあっても、優秀な成績を上げている部活動のコーチだと問題にしづらい――という遠慮が生まれるようなケースと同様です。
しかし、好業績を上げているならば、部下が自ら命を絶つまで叱責して追い込んでしまうような上司でも、管理職としては優秀だという理屈は本当に成立するのでしょうか。
まず整理したいのは、追い込んだ側の上司は、部下が自ら命を絶つという結末を想定した上で叱責し続けていたのかという点です。もし想定していたというのであれば、それはもうパワハラの域ではなく、刑事事件として裁かれるべき殺人に相当します。しかし、多くの場合、加害者である上司にとっても想定外の結末だったのだろうと思います。だとすれば、そのような重大なる結末の“読み違い”をしてしまう上司が、管理職として優秀だという理屈など成り立つはずがありません。
先に見た通り、叱責妄信型上司は、「心のダメージの見誤り」「怠慢が原因という思い込み」と、既にマネジメント上の決定的な過ちを2つも犯しています。しかし最も大きな過ちは、自らの叱責により、部下が自ら命を絶ってしまうという最悪な結末の可能性を読み違えていることです。
自分も部下を叱責することがある、という役職者は、冷静に自問自答していただきたいと思います。「部下の心のダメージを見誤ってないか?」「できないのは部下の怠慢だと決め付けてないか?」――そして「叱責の結末を読み違えてないか?」と。
最悪の結末を阻止できるのは、上司である“あなた”しかいないのです。
著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ3万5000人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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