車検制度はオーバークオリティー? 不正も発覚した日本の車検の意義:高根英幸 「クルマのミライ」(2/5 ページ)
自動車メーカーが、生産工場からの出荷時に行う完成検査で不正をしていたことが明らかになったのは2017年のことだった。そして今年は、自動車ディーラーでのスピード車検で不正があった。日本の乗用車に関する法整備は昭和26年(1951年)に制定された道路交通法、道路運送車両法によって始まっている。その中には幾度も改正されている条項もあるが、全てが実情に見合っているとは言い難い。
一方、自動車市場に目を向けてみると、同じ90年代からはクルマをカスタムして楽しむユーザー層が急増した。これは80年代後半からタイヤの高性能化に伴い、自動車メーカーもホイールをインチアップして扁平(へんぺい)率の低いタイヤと組み合せるようになり、純正でスポーティな車種にはボディーにエアロパーツが装着されるようになってスタイリングの洗練度も高まったことが影響している。
すると、そんなクルマたちをよりスタイリッシュで個性的なものにしようとする、カスタマイズのムーブメントが自然発生的に起こり盛り上がっていったのだ。
そんな改造を楽しみたいユーザーにとって、車検制度は一つの障害だった。それでもクルマ好きは、車検時には純正の姿に戻すことで個性的なスタイルや走りのテイストを楽しんだのだった。また一部では改造申請によって公認車検を取得してまで、堂々と改造車を乗り回すオーナーも現れ始めた。
こうしたクルマを改造するという行為に対して、車検制度はあくまで安全性を確保するためにも必要なものだった。車検がなければ改造に歯止めが効かず、マフラーを不正改造して爆音で走り回るクルマや、危険なまでに形状を変更したクルマが街に溢(あふ)れることになったかもしれない。
ところが95年には規制緩和の一環として、ボディー外寸の小変更など軽微な改造に関しては仕様変更の申請の必要がなくなるなど、クルマの改造が気軽に楽しめる環境が整った。これにより、アフターパーツ業界が一気に盛り上がり、車高調整式サスペンションや4ポッドキャリパーを備えた大径ディスクブレーキなど、以前は車検のために装着を諦めていたアフターパーツが、クルマ好きの間でもてはやされることになる。
それらはスポーティカーだけでなく、ワゴンやミニバンブームなど新しいカテゴリーのクルマをヒットさせる起爆剤的な役割も果たし、自動車業界に賑(にぎ)わいをもたらした。もし車検制度が昔のように厳格なままであったなら、クルマをカスタマイズして楽しむという楽しみ方は日本に定着しなかったであろう。
エコカー減税という補助金制度も後押しして3代目プリウスが大ヒットしたこと、最近のSUVブームで、そうしたカスタムブームは下火にはなったが、トヨタなどはスポーティなオプションパーツを豊富に用意して、オーナーのパーソライズを楽しむ姿勢をサポートしている。このように、クルマの楽しみ方は80年代までと比べると実に多様化している。
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