【後編】分からないことだらけの「インボイス制度」で経理業務はどう変わる? Peppolの基本も含めて徹底解説:対談で学ぶ電帳法とインボイス(2/4 ページ)
TOMAコンサルタンツグループの持木健太氏とSansanの柴野亮氏の対談企画、後編テーマは、2023年10月に導入を控える「インボイス制度」。そもそもインボイス制度とは何なのか、なぜ導入されることになったのかといった基本に加えて、対応するために準備すべきことまで広く話を聞いた。
TOMA 持木:企業の納税の流れを整理してみましょう。売り上げで消費税を預かりますよね。一方、仕入れで消費税を払いますよね。そして最終的に、預かった消費税から支払った消費税を引くんですが、これを「仕入税額控除」と呼びます。
例えば、売り上げで預かった消費税が300円でした。仕入れで支払った消費税が100円です。その差額の200円を納税する仕組みになっています。
現在は、仕入れ側(買い手)が課税事業者に1100円払う場合と、免税事業者に1100円払う場合があります。免税事業者は納税義務が免除されていますから、1100円が丸々手元に残ります。柴野さんがおっしゃっていた「対価が1.1倍になる」というのは、そういう意味です。
――本当だったら、1100円の内100円は納税されるはずだけど、仕入れ先が免税事業者の場合は益税になっているんですね
TOMA 持木:しかも今は、免税事業者に仕入れで支払った消費税も、実質的に仕入税額控除対象になっています。なぜなら、支払先が課税事業者なのか、免税事業者なのか国側で把握できないためです。
しかし今後は、登録番号で課税事業者と免税事業者がはっきりと区別できます。柴野さんがいうように、登録番号は課税事業者しか取得できないからです。よって、登録番号がない請求書(適格請求書ではないもの)に関しては、仕入税額控除外となります。
「インボイス制度で損をする」は正しいのか?
――仕入れ先が免税事業者だった場合、今まで益税分になっていた消費税は誰が納税するのでしょうか?
TOMA 持木:仕入れ側です。上の例で言うと、預かった消費税が300円で支払った消費税が100円のつもりだったけど、支払先が免税事業者だった場合は、支払先で納税が行われていません。そのため仕入税額控除とならならず、今まで200円だった納税額が300円になります。
――では、免税事業者と取引をすると損をしてしまうのですか?
Sansan 柴野:そもそもの主旨は益税分をちゃんと納税しましょうということですから、その判断は難しいと思いますよ。正しい税収の形に修正されるだけなので、実は損も得もないはずなんです。
TOMA 持木:とはいえ、もし今後、消費税分を対価から引かれると、免税事業者にとっては実質的な減収になることは否めません。しかし仕入れ側は今まで通り仕入税額控除を受けたい、受けられないならその分、対価を下げたいのが本音でしょう。課税事業者も免税事業者も、今後どういう取引先と付き合っていくか――これは課題になるでしょうね。
Sansan 柴野:インボイス制度と電帳法は、少し毛色が違うんですよね。電帳法には罰則がありますが、「違反の程度を総合的に判断する」旨を国税庁が既に公表しています。つまり、よほど悪質ではない限り一発レッドカードにはならない。それは、電帳法対応が大変だと分かっているからでしょう。
しかし、インボイス制度は内容がシンプルで、分かりやすく税収にインパクトもある。国としては温情処置を設けるよりも「ダメなものはダメ」としっかり対応を促す姿勢をとっているように思えます。まだ約2年も猶予があるので、自社にも取引先にも周知を図って、対応を進めていきたい制度です。
2年後には膨大な量の登録番号を手作業で確認するハメに!?
――インボイス制度と電帳法はセットで語られることが多くありますが、どんな関係があるのですか?
Sansan 柴野:請求書に登録番号を明記する、こう聞くと発行側の負荷が高いように思えますが、実は受領側の負担が大きいんですよね。
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