旧車ビジネスが拡大するワケ レストアでクルマは新車状態に:高根英幸 「クルマのミライ」(3/5 ページ)
日産自動車とその関連会社や部品メーカーが、30年乗り続け26万キロもの走行距離に達した日産シーマを8カ月かけてレストア作業を行い、新車のような状態まで復元したことが話題になっている。
世界各国のレストア事情
欧米でもレストアは広く行われているが、その方向性は日本とはやや異なる。米国のレストアは、クロームメッキや塗装をとことん磨き込んでギラギラと輝くほどにする傾向だ。それに対して欧州、特にドイツは新車当時の質感を再現する傾向にあり、日本もそれに近い。英国も自然な仕上がりだが、よほどの熟練職人のレストアショップでなければ、仕上がりはそれなりだ。
欧米でもトップレベルのレストアラーは素晴らしい技術を持っているが、日本のレストア技術は世界的にも見てもレベルが高い。トップレベルの技術を誇る職人たちはもちろん、業界全体でもレベルは高いのだ。
日本のレストア技術が高まった理由は、高度経済成長期にまで遡ることができる。当時は円タク(関東圏であれば1円でどこへでも運んでくれた)の利用が盛んで、自家用車はまだこれから普及する時代、流通も今のようにスピーディでなければ、クルマやその部品の生産体制も今ほど整っていないから、部品の供給にもかなり時間を要したのだ。
その上、道路は舗装率も低く、信号も少ない(道路自体も少なかったであろうが)ため、交通事故も多かった。タクシーの場合、修理工場に入庫していると、その間は稼げないため営業損失が大きい。そこで1週間後に届く交換用のボディパネルを待つのではなく、鉄板からハンマーを使った手叩(たた)きでボディパネルを作り出してしまう腕利きの鈑金職人が重宝がられたのだった。
当時はドラム缶に金が貯まったというほど、鈑金塗装はもうかる商売だったといわれている。日本の職人の器用さが鈑金でも発揮されたのだ。
そしてオイルショックを経て、自動車業界はバブル経済に向ってクルマの高性能化が加速していった。クルマの修復技術についても塗料や工具が充実し、さらにフレーム修正機などが発想豊かなイタリアなどから上陸し始め、日本の職人たちはそれらをたちまちモノにしていったのである。
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