「名門銀行子孫」のあっけない幕切れ 新生銀行・SBI・金融庁、TOB騒動の背景に三者三様の失策:迷走・モラル欠如・皮算用(3/5 ページ)
TOBを巡る、新生銀行とSBIの騒動がひとまずの決着を見た。しかし、本当にこれでよかったのかといわざるを得ない幕切れとなり、疑問点は尽きない。今回の騒動を振り返りつつ、かかわった金融庁の打算を交えながら、総括を試みる。
さて、そのSBIですが、北尾氏が鼻息荒く公的資金完済に向けてぶち上げているのが「地銀連合構想」です。
これは、経営状況の厳しいいわゆる「限界地銀」に資本注入を含む業務提携を実施し、商品サービス面、資金運用面、システム面から支援していこうというもので、既に地銀8行と提携関係にあります。SBIにとっては、地銀とその先にある顧客に対して大きなビジネスチャンスがあるわけですから、ボランティア事業ではなく、まごうことなき収益事業です。しかし見かけ上は、地域金融機関の経営安定化に資するという大義名分が成り立っています。
さらに、北尾氏は新生銀行が20年も前に借りた公的資金をいまだ完済していないことに対して「泥棒も同然」と称し、「SBIが経営権を握ったならば、新生銀行を地銀連合の中核金融機関に位置付けることで、公的資金を必ず返済させる」と宣言。このたびのTOBに対する正当性を帯びさせるに十分なインパクトを与えました。あとで金融庁関連として述べますが、この宣言こそ今回のTOB成立においてかなり大きな役割を果たしたといえるでしょう。
しかしながら見かけ上の大義名分や正当性の主張に着目する前に、このTOBの是非を考える上で必要だったのは、そもそもSBIが大手銀行である新生銀行の経営権を握ることにふさわしい企業であるか否かという確認ではなかったか、と個人的には思っています。
その点に関する議論が公には全くなされていないことは、いささか不十分であったと思います。具体的には、TOBの直前にSBIが実質同一企業である関連会社SBIソーシャルレンディング(SBISL)で融資モラル欠如により投資家保護を怠ったことで、金融庁から業務改善命令を受け廃業に追い込まれていることが、ほとんど議論の俎上に上がらなかったことに「問題あり」だと思うのです。(この点については、前回このテーマを取り上げた拙文に詳しいので、過去記事『風雲急の新生銀行TOB 金融庁は「モラル欠如」のSBIを認めてよいのか』をご参照ください)
SBIのやり口で気になる点はまだ他にもあります。
関連記事
- 日立と東芝、ソニーとパナ 三度のパラダイムシフトが分けた「昭和企業」の明暗
バブル崩壊、リーマンショック、コロナ禍と、平成以降、日本企業を襲った三度のパラダイムシフト。この間に、多くの「昭和企業」が明暗を分かたれた。本記事では、代表的昭和企業として、日立と東芝、ソニーとパナソニックを分析していく。 - 風雲急の新生銀行TOB 金融庁は「モラル欠如」のSBIを認めてよいのか
SBIホールディングスが開始した、新生銀行へのTOB。地銀再編を巡る大きな動きだが、SBI側が引き起こした「事件」に筆者は着目する。果たしてモラルが欠如した企業に、銀行運営を任せてよいのか。 - 都銀再編時に「ごみ箱」構想を持っていた金融庁と地銀救済で手を組むSBIホールディングスは天使か、悪魔か?
SBIホールディングスが仕掛ける「地銀救済」。陰には金融庁の影響も見え隠れするが、「証券界の暴れん坊」と目されるSBIと金融庁、それぞれの思惑とは? 過去、銀行勤務時代に大蔵省との折衝を担当していた筆者によると、90年代の都銀再編時に官僚は「ごみ箱」構想を持っていたという。 - 山口FG「CEO電撃解任」で見えた 地銀改革を阻む金融行政の「置き忘れ荷物」
「山口の変」が勃発した。多角経営など、地銀改革を進める山口フィナンシャルグループで会長兼CEOが電撃解任された。改革の進む山口FGで何が起こったのか。背景には金融当局の失政も透けて見える。 - 三菱電機だけでなく、東芝も! 非常識すぎる不祥事の裏に見える「旧財閥」的組織風土の闇
東芝、三菱電機と有名大企業の不祥事が続いた。その悪しき組織風土の影には「旧財閥」がチラつくと筆者は指摘する。実は三菱電機だけでなく、東芝も旧財閥に関係することはあまり知られていない。こうした悪しき組織風土を変えるにはどうすればよいのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.