「ホテルの賞味期限は10年」 インバウンド向けに急増したホテルが直面する“厳しすぎる”現実:瀧澤信秋「ホテルの深層」(2/4 ページ)
コロナ禍で意外に堅調だったカップル需要。コロナ禍前であればレジャー(ラブ)ホテルが十八番とされていたが、過去にさかのぼると、伝統的な高級ホテルでも午後チェックイン/深夜にチェックアウトというケースは散見されたという。
多様な業態がフォーカスされる
筆者は、ホテル評論家になって以来約8年間、業態を横断的に評論するスタンスを堅持してきた。業態とは、シティーホテルやビジネスホテル、リゾートホテルをはじめ、旅館、レジャー(ラブ)ホテル、カプセルホテルやホステルといったカテゴリーのこと。評論にとって比較することは重要な要素であり、比べてはじめて見えてくることを大切にしてきた。
実際、インバウンド活況からコロナ禍と激変した業界と共にあった評論家仕事においては、比べてはじめて分かる体験のオンパレードであった。簡素さから豪華さへ変貌を遂げる宿泊特化型ホテル(ビジネスホテル)など、業態のボーダーレス化もひしひしと感じていた。その点を当初から指摘していたが、正直業界内でもあまり相手にされなかった。
当時のホテルジャーナルの世界では、ホテルといえば“華やかなラグジュアリー”が席巻しており、ビジネスホテルやカプセルホテルにフォーカスしていた自身は奇異な目で見られたものだ。
時に高級ホテルの取材現場で他のメディア関係者に会うと「タキザワさんこういうところにも来るんですね〜」「ビジネスやカプセルはタキザワさん専門ですよね?」などと、からかい半分で揶揄(やゆ)されたこともあった。
その後、隆盛していったインバウンド需要の高まりと旅行者嗜好(しこう)の多様化により、各業態が新たなチャレンジを続け、結果として宿泊業全体で従来の概念が通用しなくなっていった。その結果、ラグジュアリーを尊んでいたホテルジャーナルも、ビジネスホテルやカプセルホテルにフォーカスするようになった。
国策ともいえるインバウンド活況〜東京オリンピックが、宿泊施設の供給過剰を生み出したことについて今回は触れないが、各業態で過去の常識が通用しない進化をもたらした。それは、現場で日々奮闘しているホテルスタッフの知恵の集結でもあり、ゲストから支持されるホテルとは何か? と問い続けている姿でもある。
関連記事
- コロナ禍のホテルで激増した「テレワークプラン」 “大きな声では言えない”ニーズがあった!
インバウンド活況から一転、需要が激減したホテル業界。その中で筆者は「ホテルのボーダーレス化」が顕著になったと指摘する。その中で目立った「デイユース利用」だが、ビジネスパーソン以外に目立った需要があった。それは…… - 寮発祥のドーミーインが「大浴場」をどんどん展開するワケ 手掛ける「和風ビジネスホテル」とは?
「宿泊施設のカテゴリーボーダーレス化」が進んでいるが、ドーミーインのサブブランド「御宿 野乃」もそのひとつだろう。 - ホテル1室のアメニティー、清掃費用は一体いくら? ホテルの気になる“原価”あれこれ
コロナ禍で価格が下がっているホテル利用料金。そもそも原価はどのくらいなのだろうか。運営会社に取材を試みた。 - バブルの名残 温泉街の「大型施設」が廃墟化 鬼怒川と草津の違いと「大江戸温泉物語」の戦略
コロナ禍がもたらす温泉街への影響は甚大だが、「温泉の魅力」として考えさせられるのが“街づくり”という点だ。筆者は「施設そのもので集客できる強い宿は例外的で、温泉地の魅力自体が集客を左右する」と指摘する。 - ビジネスホテルの“無料朝食”、気になる原価は一体いくら? 激化する“朝食合戦”から見るホテルの今
ホテルが朝食で特色を出そうとしていることは、宿泊者としてひしひしと感じる時がある。新たな施設の建設やリノベーションを施せば特色は強く打ち出せるが、コストはバカにならない。朝食は差別化のアイテムとして取り組みやすい部分なのだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.