BABYMETALのプロデューサー「KOBAMETAL」に聞くライブエンタメビジネスの展望:悲観的に捉えるな(1/2 ページ)
BABYMETALをプロデュースしたKOBAMETALさんにコロナ禍のライブ・エンタテインメントビジネスの展望を聞いた。
米国の音楽ヒットチャート・ビルボード――。そのランキングで坂本九以来、56年ぶりにトップ20に入った日本のメタルダンスユニットがある。その名は「BABYMETAL」。SU-METAL(スゥメタル)と、MOAMETAL(モアメタル)の女性メンバー2人で構成されている。
BABYMETALの存在は、日本のエンタメビジネスの常識を変えたといっても過言ではない。メタルという激しさのある男性的な音楽と、キャッチーなルックス、華麗なダンスミュージックを見事に融合させ、欧米を中心に世界中のファンを熱狂させた。2016年にはロンドンのウェンブリー・アリーナで日本人初となるワンマンライブを開催。X JAPANのYOSHIKIは、「かわいい女の子とメタルの融合というアイデアはすごく気に入った」と評価し、『第71回NHK紅白歌合戦』では共演も果たしている。
そのBABYMETALをプロデュースしたのが、今回取り上げるKOBAMETALさんだ。『10 BABYMETAL LEGENDS』(ぴあ)『鋼鉄っぽいのが好き ‐人生9割メタルで解決‐』(KADOKAWA)と2冊の著作を上梓した。
ぴあ総研によれば、20年のライブ・エンタテインメント市場は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、前年比82.4%減の1106億円と試算されている。加えて、コロナ前の水準に回復するのは、最短で23年とも発表した。
この状況をKOBAMETALさんはどう見ているのか。前編ではコロナ禍のライブ・エンタテインメントビジネスの展望を聞く。
KOBAMETAL:プロデューサー、作詞家、作曲家、エッセイスト。メタルの神・キツネ様のお告げを届けるメッセンジャー、そしてBABYMETALをプロデュースし、世界へと導いたマスターマインド。近著として『10 BABYMETAL LEGENDS』『鋼鉄っぽいのが好き ‐人生9割メタルで解決‐』(KADOKAWA)を上梓。Twitter:@KOBAMETAL_JAPAN。Instagram:@kobametal_official(photo:宮脇進(PROGRESS-M)提供)
変化はポジティブに捉える
――コロナ禍以降、ライブは有観客から無観客オンライン配信となり、有観客で開催するとしても政府のガイドラインに基づき開催しなければなりませんでした。この間、ライブ・エンタテインメントビジネス、音楽ビジネスでは劇的な変化があったかと思います。どのように考えていましたか?
「音楽業界は大変だ、厳しい」という答えを期待してお聞きになっているかもしれません。実際、音楽業界でも、そのように答える方も少なくないですし、メディアでもそういったトーンで報じられていることも事実です。
ワタクシも、そうであろうとは思いつつも、逆説的ではないですが、そういう話はしないスタンスでいようと思っています。理由は、ポジティブに考えれば、悪いことばかりではないと思っているからです。
例えばレコードがCDになった時、アナログ世代の方々は、CDを否定していましたね。でも、いつの間にかCDが一般的になりました。その後、音楽業界からの反発があったり、音質が悪くなるなどと批判されたりしながらも、インターネットの普及と共に、ストリーミング配信に移行していきました。そしてコロナ禍以降はライブ配信への道が開かれたわけです。
そういう歴史があります。否定されたり、叩(たた)かれたりしながら、時代によってスタンダードが変わっていくと思っています。実際、世界的に見ればCDが売れているのは日本くらいで、欧米ではCDはほとんど売っていない状況ですからね。
――欧米のビジネスシーンでは、すでにCD販売は下降の一途をたどっているのですね。
はい。ほぼ売っていませんね。サブスクリプションモデルや広告モデルがあったりしますが、Spotify(スポティファイ)、Apple Music(アップルミュージック)、YouTubeも含め、基本的にもう音楽は限りなく「無料で聴くもの」になっています。こうやって、音楽に限らず、エンタメの価値が変わってきていると思うんです。
今回のコロナ禍もそういった変化に近いと思っています。例えるならライブ・エンタテインメントビジネスが、アナログレコードからCDをすっ飛ばしてオンライン配信になってしまった感じです。
――この変化をどうポジティブに捉えていますか?
従来のライブは、アーティストが地方も含め各地を回るツアー形式で実施されていました。お客さんにとっては、わが町にアーティストが来てくれていたわけです。アーティストとファンが一体になる場所があったのは良かった部分です。一方で、ライブを開催すること自体は、アーティストも、ファンの方も、物理的に移動しなければなりませんから、時間もお金もかかります。かなりハードルが高かったのです。一方、オンライン配信になってからは、物理的な移動が必要なくなりました。
例えば、離島に住んでいらっしゃる方とか、仕事の都合でなかなか時間を作れない方とかでも、オンラインでは一発でアクセスできます。K-POPなどでは、インタラクティブにやりとりができるアーティストもいたりします。ですので個人的には、ネガティブなことばかりではないと思っています。
――著書『鋼鉄っぽいのが好き』でも「深刻に考えすぎず」「楽しく」というメッセージを随所に出していますが、元来の思考がポジティブなんですね。
そうなんです。「良いところはどこだ?」と探すタイプです。ワールドツアー規模のアーティストって、やっぱり大変なんですよ。何十人ものスタッフを連れて、ビザを取って、保険に入り、時差がある世界の街から街へ移動します。ものすごい労力です。
それが、オンライン一発で、移動もなく、一気に全世界のツアーに行けるわけじゃないですか。他にもリアルライブであれば、例えアリーナ、スタジアムクラスでやっているアーティストでもキャパシティーの上限はあるわけです。
例えばBTSのように、マーケットの対象がワールドワイドのアーティストにとっては、オンライン配信ライブは、非常に効率が良いわけです。もしBTSを観(み)に、ブラジルから韓国まで行かなきゃいけないとしたら、相当に大変なことです。だからオンラインライブは、ファンにとってもメリットがあります。
もちろん、同じ空間を共有できる、できないなど、リアルとオンラインとの違いはありますが、これらを考えても良いところはあったと思います。
コロナネイティブ世代の出現 ビジネスモデルの転換期
――今がまさにビジネスモデルの転換期だということですね?
ワタクシはよくラーメンに例えるのですが、人って昔食べておいしかったラーメンの味は覚えていますよね。でも急に味が変わったりすると戸惑うじゃないですか。
そう考えるとリアルライブからオンラインライブへの変化は、この感覚に近いと思うんですよね。リアルライブにずっと慣れ親しんでいた方々は、もちろん戸惑うと思いますし、ちょっと違うと感じていると思うんです。
ただ、今の時代に初めて音楽に興味を持ち、ライブ体験をする「コロナネイティブな世代」の人の「初めてのライブ」が、マスクをし、声を出さない、間引きをした着席のライブ体験であれば、それが昔食べたおいしかったラーメンになるわけです。
若い世代には、昔のフェスのようなオールスタンディングで、満員の会場がちょっと怖いという人も出てくるかもしれません。それこそ、その世代の人がエンタメシーンを担う年齢になった時、新しいエンタテインメントビジネスの形ができるのではないかと楽しみにしています。
――どんな状況にあっても悲観的でなく、ポジティブに捉えようとするのがKOBAMETALさん流の思考法というわけですね。
皆さん「将来が心配です」みたいな話になっていくんですけど、今のハイブリッドな状況が「どのように進んでいくのか?」と思っているんです。
実際に今、またアナログレコードの売り上げが伸びています。ワタクシも何年か前にニューヨークに行った時、普通にフリーマーケットでカセットテープやアナログレコードが売られていました。アナログなものが、若い人にとっては、逆に新しく見えるんだと思います。日本でも、大滝詠一さんなどの音楽「シティ・ポップ」が再評価され、ファッションでもお父さんやお母さんが若い頃に着ていた服がおしゃれなアイテムになったりしていますよね。
そんなことを考えると、音楽やエンタメビジネスも、一度デジタルに振れる一方で、「またアナログに戻ってくるのかな?」などとも思えてきます。
――まさに、今起こっていることを見て、今できることを考えるということですね。
日本で言えば3.11の東日本大震災、米国で言えば9.11の同時多発テロ、こういったことが起こるとエンタメビジネスでもいろいろな影響を受けるわけです。コンサートを開くにあたっても、交通の問題であったり、警備上の問題であったり、それらへの対策が必要であって、今回のコロナ禍もそういった流れの一つと考えています。
ただ、今回のコロナ禍に関しては、特定の地域の問題ではなく、全世界が直面する問題でした。「明日からマスクなしで、フルキャパシティーで大丈夫です」となっても、今までのお客さんがどれくらい戻ってくるかと言えば100%ではないと思っています。やっぱり、何割かの人は、まだ怖いと思うのではないでしょうか。
まだ、昔のスタイルのライブは安心できないと敬遠する方はおられると思うんです。しかし、そういう方にも楽しめるライブ配信、VR(Virtual Reality/仮想現実)、AR(Augmented Reality/拡張現実)、MR(Mixed Reality)、また今はない新しいライブの形が開発されるかもしれません。
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