BABYMETALのプロデューサー「KOBAMETAL」に聞くライブエンタメビジネスの展望:悲観的に捉えるな(2/2 ページ)
BABYMETALをプロデュースしたKOBAMETALさんにコロナ禍のライブ・エンタテインメントビジネスの展望を聞いた。
「最新が最強のBABYMETALであれ」
――KOBAMETALさんがプロデュ―スするBABYMETALでも、新型コロナの影響を受けて何か変わったこと、変えたことはありますか?
BABYMETALに関して言うと、基本的に変えたことはありません。コロナ禍以降では、日本武道館の10公演しかやっていないので、クオリティーを落とさず、「最新が最強のBABYMETALであれ」と、BABYMETALの名に恥じぬよう最大限できることをやった感じです。
コロナ禍以降、観客数の制限や感染対策のコストの問題もあり、ステージセットをシンプルにし、なるべくお金をかけないようにと考えがちです。ですが、BABYMETALでは逆に以前よりお金をかけました。
ワタクシがお客さんの立場なら、今まで通ってきたなじみのラーメン店の味が変わったり、量が半分になったりすれば、やっぱり違和感を覚えると思います。
ファンの皆さんと培ってきた10年間の信頼関係を裏切ってはいけないですし、特にコロナ禍という誰にとってもの窮地、ピンチのときこそ、信頼を失ってはいけないと思いました。そこはあえて、以前より制作費をかけました。
――ステージセットの他にはどんなことを実施しましたか?
BABYMETALのライブは、演出として「儀式的なもの」を取り入れています。14年に初めて実施した日本武道館のライブ時には「コルセット祭り」と銘打ち、お客さん全員に、首につけるコルセットを配ったりしていました。「ヘドバン」して首が痛くならないようにではありませんが、ライブでのドレスコードを作る感覚で、節目節目でちょっと変わったことをしていました。
今回は、ライブ参加の記念としても、14年のセルフオマージュとして、「Savior Mask」という、ご自身がしているマスクの上から、ランニングなどの際に利用するスポーツタイプのマスクを、全員に配りしました。マスクを配るだけではなく、そのマスクをしていないと会場に入れないドレスコードを設定して、感染症対策に加え演出的にもプラスに働いたと思います。
――コロナ禍で客席数が制限されることから、チケット価格を上げたり、最近よくあるプレミアムシートなどに変えたりしたと思います。これによる収益への影響はありましたか?
BABYMETALは、もともとステージセットにお金をかけていましたが、若干値上げした程度でしょうか。
日本武道館では最前列にプレミアム仕様の席を設定しました。BABYMETALは、ファン向けの「THE ONE」というメンバーズプロジェクトがあり、コロナ禍以前より、メンバーの方向けに、いろいろな工夫はしていました。
収益に関して、それぞれのアーティスト個別には分かりませんが、ライブ業界で言うと、飲食店への補助金(補助制度)があったように、ライブ公演に対する公的支援(J-LODlive:コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金)もありました。
多くのライブ公演がこのような補助金を利用されているのではないでしょうか。アーティストによって異なるとは思うのですが、観客数の制限があったとしても、収益の点では補助金があればそれほど大きな影響はなかったと思います。
――また、東京のライブハウス目黒鹿鳴館さんとの対談も実施しました。これはどのような背景があったのですか?
目黒鹿鳴館は、BABYMETALが初めてワンマンライブを開催した聖地なんです。コロナ禍では、アーティスト同様にライブハウスも影響を受けました。BABYMETALも何らかの支援ができないかという意図もあっての対談でした。
BABYMETALは10周年で、本当は何らかのイベントもできればと思ったのですが、時期的なことや規模の問題もありましたので、「THE ONE」メンバー限定で、目黒鹿鳴館でのライブパフォーマンスを配信しました。コラボグッズを目黒鹿鳴館さんとダブルネームで制作し、売り上げの一部をサポートしています。
目黒鹿鳴館の本来のキャパシティーは250人程度ですが、250人しか入れない所から配信することによって、日本の方だけではなく、海外の方も含め、本当に多くの方に視聴していただきました。コロナ禍にあっても、全部が全部ネガティブなことばかりではなかったと思うんです。
ピンチをチャンスに変えること
以上がKOBAMETAL氏へのインタビュー内容だ。同氏がいう「ネガティブなことをポジティブに捉える」。ビジネス書、啓発書などにある「ピンチをチャンスに変える」とは誰もが言葉として知っている。しかし、今回ばかりは、全世界的な苦境で、誰もが直面したコロナ禍というクリティカルな「ピンチ」だった。
変わっていくビジネスモデルは努めて客観的に捉える。その一方で、BABYMETALのライブはファンと共に10年間という時間をかけて作り上げてきたものだ。その在り方を変えないこと、ファン(顧客)との信頼関係を壊さないことを徹底してきた。ビジネスにおいては、環境の変化があっても変えてはいけないものもあるのだと取材を通して学んだ。
中編では、世界的なアーティストに成長し、10周年を迎えたBABYMETALは、どのようなコンセプトでプロデュースされたかに迫る。
著者プロフィール
柳澤 昭浩(やなぎさわ あきひろ)
18年間の外資系製薬会社勤務後、2007年1月より10期10年間に渡りNPO法人キャンサーネットジャパン理事(事務局長は8期)を務める。科学的根拠に基づくがん医療、がん疾患啓発に取り組む。2015年4月からは、メディカル・モバイル・コミュニケーションズ合同会社の代表社員として、がん情報サイト「オンコロ」コンテンツ・マネージャーなど多くの企業、学会などのアドバイザーなど、がん医療に関わる様々なステークホルダーと連携プログラムを進める。「エンタメ×がん医療啓発」を目的とする樋口宗孝がん研究基金、Remember Girl’s Power !! などの代表。
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