小売りを救う“緊急事態対応”! 進化する需要予測の「4つのカギ」:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(2/3 ページ)
コロナ禍では、急な感染拡大や緊急事態宣言などの発令により、消費者の行動が大きく変わる。そんな中、小売り企業はどのように備えるべきなのか──“緊急事態”の需要予測を成功に導く「4つのカギ」を紹介する。
マッキンゼーのレポートでは、緊急事態宣言の発令などで消費者の行動様式が今までと大きく異なる状況になった場合、企業は“SPRINT”を実行すべきだと書かれています。
S=Size
一番影響を受けた商品や地域、店舗など細かいレベルで影響度を定量化する
P=Project
需要予測を正しく行う
R=Revamp
緊急事態対応型需要予測などに合わせて、会社全体のマーケティングを見直す
I=Invigorate E-commerce
ECを活用する
N=Navigate
販売チャネルや販促、値段を見直す
T=Team
顧客と対話をして、チームアップする
ここから分かるように、迅速に環境の変化に対応した需要予測モデルを作りこみ、その出力値に合わせて、柔軟にマーケティング戦略や営業の方法を見直さなければいけないのです。
私が経営するAI開発会社のパロアルトインサイトでも、飲食チェーンや小売店舗、その商品を運ぶ物流業界から「コロナ禍で消費動向が変化したため、コロナ前に使っていた需要予測モデルや受発注システムが適切でなくなった。コロナ対応型の予測モデルを作ってほしい」という依頼を受けることが増えています。
例えば、飲食チェーン大手のリンガーハットから依頼を受け、緊急事態対応型需要予測モデルを開発しました。
本プロジェクトには、消費者の需要を予測する従来のシステムに加えて、地震や台風などの自然災害や感染症のパンデミックなど、さまざまな緊急事態下で多様に変化する消費者の需要をAI(人工知能)を活用して予測し、適正な発注数の算出、在庫管理、出荷量予測を行うことで、サプライチェーンの無駄を減らす狙いがあります。
さらに、緊急事態宣言や災害などで需要が急激に変化した際には緊急シナリオに一瞬で切り替えることでオペレーションの遅延をなくし、業務の円滑化を実現する技術基盤にもなることが予想されます。
緊急事態宣言が発令されて営業時間を変更せざるを得なくなると、店舗に足を運ぶ顧客の数などが変化します。開発したモデルはこういった変化をいち早く検知し、緊急事態以前の「通常モデル」とは異なる手法で、より関連性の高いデータを使って、緊急事態下での需要予測をするものです。
検証の結果、実際に通常モデルを使って緊急事態下での予測をしたときと比べて、非常に高い精度で需要予測ができることが分かりました。22年中に700店舗へ導入を予定しています。
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