日本企業に使いこなせるのか 過度な「優秀な人材」獲得競争に覚える違和感の正体:組織文化を壊すリスクも?(4/5 ページ)
昨今、ビジネス環境の変化に伴い、「優秀な人材」の獲得競争が激化している。一方で、いわゆる優秀な人材を獲得するのがゴールではない点に留意が必要だ。ケースによっては組織文化を壊してしまうリスクもある。
こんなエピソードもあります。社員数が500人ほどで、その多くがこれまで新卒採用から育成してきた社員という企業がありました。そんな企業でも、昨今の環境変化にキャッチアップするため、経歴や実績から判断して優秀だと思われる中途採用社員を30人ほど採用したそうです。その結果、従来の組織文化が一気に変わってしまい、せっかく育ててきた社員の退職が増え、社内の雰囲気も悪くなってしまったそうです。ギスギスしてしまった組織を立て直すのに5年ほどかかったといいます。
もちろん、中小企業でも新しい風を吹き込んでくれるような優秀な人材が欲しいと考えるのは当然でしょう。しかし、単に優秀な人材を採用するだけではなく、組織の調和も事業を継続する上で大切な要素となるのです。
筆者は、どの企業でも「優秀な人材が欲しい」という風潮が強くなっていることに強い違和感を覚えています。日本では、中小企業が圧倒的に割合を占めている産業構造になっており、企業の99.7%は中小企業です。確かに時代の流れとして、テクノロジーの進化によりこれまで行ってきた仕事のスタイルは変化していきますが、このような「スキルや能力は普通でいい。けれど、社内の調和を大切にしたい」と考える企業も実は多いはずです。
経営者と人事がやるべきこと
では、企業の経営者や人事は、新たな人材を採用するに当たって「自社に必要な人材」をどう定義していけばいいのでしょうか。筆者は「自社の組織文化と融合し、将来の事業成長を見据えた人材戦略」を立てていく、つまり「自社の事業と組織のロードマップ」を描いていく必要があると考えています。
このロードマップがないと、前述の事例のように「一般的に優秀な人材が欲しい」と採用した人材が、組織にうまく馴染めず能力を発揮しきれずに退職してしまったり、周囲の既存社員のモチベーションを落としてしまったりすることにもつながってしまいます。先ほど紹介した事例のように、時として優秀な人材の採用は組織にとって「劇薬」になり、混乱してしまうこともあるのです。
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