これは立派な社会問題だ――「働かないおじさん問題」と正しく向き合うべき理由:「働かないおじさん問題」のニュータイプ化(2/3 ページ)
「働かないおじさん」という言葉を目にする機会が増えた。一方で、実際にミドルシニアの問題に悩む企業の話を聞くと、「本人が意図的にサボっている」というサボリーマン的な内容はごくわずかだ。「働かないおじさん問題」はどこから生じているのか、その本質について考察する。
「働かないおじさん」問題は社会問題
「働かないおじさん」に関する記事やネットの論調を見ていると、犯人捜しや責任の所在にフォーカスしたコメントが多い気がしています。
- 「高い給料をもらいながら、成果が出せない(出そうとしない)本人が悪い」
- 「若い時期に安月給でこき使って、急に手のひらを返した会社が悪い」
- 「その状況に対して何も言わない(言えない)上司や人事が悪い」
- 「中高年だけでなく働かない若手も多い」
- 「国の制度や法律が悪い」
――などです。
しかし、「働かないおじさん」問題は、さまざまな要因が複合的に重なって生じた問題であり、誰かを責めるのではなく、少子高齢化と生産年齢人口減少が続く日本全体が向き合って解決すべき社会問題ではないか、と考えています。
この後は、それぞれの立場で問題を見ていきます。
企業側から見た問題
特に日系大手企業では、バブル世代と呼ばれる大量採用世代が50代を迎え、社内のボリュームゾーンになっています。そうした社員が「働かないおじさん」化してしまうと2つの問題が生じます。
1つは「ポストの確保」。
現状でも、60歳以降のポスト確保に苦労している企業が少なくありません。仕事自体のAI化・自動化・複雑化が進む中で、最新の技術や環境に適応できる人材集団でないと、提供できる職務がないだけでなく、組織自体の運営が難しくなる危険性が高くなっていきます。
もう1つは「適切な処遇」。
環境変化が激しい現在、ビジネスも求められる人材も常に変化しています。ジョブ型と呼ばれる働き方が近年注目されていますが、高度な能力や専門性を持ち成果を出す人材に、年齢や勤続年数を問わず高い処遇を提供することで組織の競争力を高める動きは、今後も続いていくと想定されます。
裏を返せば、現在の処遇と能力・成果にギャップが生じている社員に今までの処遇を継続するのが難しいことを意味しています。
この問題は、特に処遇が若手よりも高いミドルシニアの管理職層で顕著に発生します。
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