なぜ、トヨタは執行役員を“半分以下”にしたのか 大企業に迫る「2つの波」:連載・2021年、役員改革が始まった(1/3 ページ)
リーマンショック後に起こった執行役員の廃止や削減の動きは、2010年代に入ってからは大企業にも広がっていきました。その一例が、日本を代表する企業の一つであるトヨタです。なぜ、トヨタは改革に踏み切ったのでしょうか。
前編
執行役員を廃止・削減する1つ目の波
上場企業の開示として、「執行役員制度廃止のお知らせ」というプレスリリースが目につくようになったのは、リーマンショックで世界経済が変調をきたした2008年ごろといわれています。当時、廃止に動いたのは、上場会社といえども、社員数が1000人以下の企業が中心で、大企業というより中小規模の企業での事例が中心でした。
廃止の理由を見てみると、「意思決定の迅速化」「経営の効率化」「取締役会の強化」などが並んでいます。それぞれの企業による事情は異なる部分もありますが、これらの理由は、執行役員制度の導入の際に掲げられた目的と同じです。導入した理由と廃止した理由が同じという、まさかの事象が起こったことになります。
あるサービス企業では、社長がリーマンショックの少し前から景気減速の気配を感じ取っていました。そこで社長は、拠点の縮小や一部事業の縮小などの方針を執行役員に対して指示していたそうです。
しかし、執行役員が仕切る現場からは「大丈夫だ」という回答が続きました。結局、現場の反応が鈍いことから事業縮小のタイミングが遅れ、軌道修正が間に合いませんでした。縮小対象となった事業は、大きな固定費が先行する構造で、好況で受注が活発なときはよいが、景気が悪化すると、その費用を賄うことができなくなるモデルでした。
景況感の見極めがカギとなる事業において、執行役員に任せすぎたことで、経営の機動性が失われたというのが社長の本心でした。最終的に、この企業では、経営のガバナンスが効いていなかったとの反省から、執行役員制度の廃止に踏み切るに至りました。
他の企業からも、景気が上向きで、各事業がそれぞれ伸びているときには執行役員制度は機能していたが、事業の撤退や縮小の局面では機能しなくなったという声が漏れ聞こえます。本来であれば、現場に権限委譲をすすめることで、経営の機動性が高まるはずです。しかし、執行役員の持ち場そのものの存亡を決めるときには、必ずしもうまく作用するとは限りません。
これらの事例を、体力のない中堅企業がリーマンショックに見舞われた特殊なケースとして、断じてしまうことはたやすいでしょう。しかし、経済環境や事業環境などの変化が激しさを増すなかで、攻めの経営と守りの経営がより混然一体となるのは、大企業も例外ではないはずです。むしろ大企業こそ、いくつもの事業を抱え、攻めと守りを複雑に使い分けることが求められます。
ライフサイクルのステージや競争環境が異なる複数の事業に対し、持続的に企業価値を高めるため、事業ポートフォリオの変革や事業構造の転換がせまられている企業は少なくないのが実感です。執行役員に現場を任せることで、市場の変化を機敏に察知し、事業の機動性を高めることにつながるケースも十分あります。一方で、事業の撤退や縮小局面では、自らが担当するテリトリーを執行役員本人が守ろうとする意識が働く可能性も大いにあります。
執行役員を廃止・削減する2つ目の波
上述の通り、リーマンショック後に起こった執行役員の廃止や削減の主役は、中堅以下の企業でした。しかし、2010年代に入り、その動きは大企業にも広がっていきます。
その一例が、日本を代表する企業の一つであるトヨタです。
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