サイバーエージェント藤田晋社長と堀江貴文氏が語る宇宙ビジネスの未来:「ロケット開発は他のものづくりと変わらない」(2/2 ページ)
サイバーエージェントの藤田晋氏とIST創業者の堀江貴文氏が、今後の宇宙ビジネスの展望と課題を語り合う。
米国では宇宙産業に資金が集まっている
藤田: IT企業はネットバブルのときに、すごく簡単に資金調達ができていました。それに比べると宇宙産業は、起業家としては正しい姿だけれども、資金集めが大変そうですね。
堀江: ネットバブルのときは、正直なところお金には困らなかった。でもロケットはITベンチャーに比べると、かかる金が桁違いに多いです。工場を1つ建てるのに15億円かかる世界です。
藤田: それはそうですよね。株式市場を使って資金調達はできないのですか。出所してきた頃は2度と上場しないと言っていましたが(笑)。
堀江: 僕の問題などがありましたから(笑)。でもわれわれもやっと、市場関係者と話をしているところです。
藤田: 宇宙産業に対する投資バブルみたいなものが来てほしいですよね。
堀江: 米国ではもう来ています。スペースXは時価総額が10兆円を超えて、デカコーンを超えた状況です。スペースX以外にも、人工衛星を軌道投入できた会社が3社あって、いずれも特別買収目的会社のSPACで上場し、最低でも2000億円以上の時価総額になっています。
藤田: だったら、日本にもバブルがきますよね。
堀江: ネットバブルは、米国から2、3年遅れて日本で起きました。Netscapeが上場したのが1995年で、日本のヤフーが店頭市場に登録したのが97年。それから3年くらいが経ってネットバブルがきて、僕らの会社が上場しました。そのときに近い感じはしていますね。
ただ、ロケットはレアなので、もっとすごいことになるかもしれない。それに通信事業も展開します。成長産業であることは確実なので、サイバーエージェントグループに出資していただいたように、応援してくれる人が増えるのは、すごくうれしいですね。
30代や40代の人材が足りない
藤田: 資金集めもそうですが、人材集めも大変そうですね。
堀江: 1990年代後半の苦労を味わっていますよ。
藤田: でも、宇宙産業で働きたい技術者はいっぱいいるでしょう。夢がありますから。
堀江: 本当はいっぱいいると思う。でも、ITベンチャーのときも、最初はなかなかこなかったですよね。
藤田: 親が反対する。
堀江: 親もそうですけど、当時はWebプログラマーが職業としてなかった。
藤田: そうですね。だから、ややアウトローな感じの人が集まっていた(笑)。今エンジニアとして入社してくる人は、大卒でコミュニケーション能力も高いですよね。
堀江: それは職業としてのジャンルが確立されたからです。Webプログラマーはちゃんと稼げて、社会的地位もあって、給料もよくなったから、みんな来るようになった。1990年代後半の求人なんて大変でした。
今はISTもだんだんよくなってきています。やはりロケットが宇宙空間に到達したことが大きいですね。大企業から転職してくる人、出向してきている人、一流大学を卒業した人がどんどん入ってきています。
ただ、20代前半や50代の人は来てくれますが、30代や40代の人がこないですね。自動車や重工業の会社にいる課長級のエンジニアのような、プロジェクトのマネジメント能力もあって、自分でも手を動かせる人にもっときてほしいなと思っています。
ロケットは他のものづくりと同じ
藤田: どうすれば事業や人材確保がもっと加速する感じですか。
堀江: 事業に関しては資金が大事ですが、人材については誤解を解くことですね。インターネットの草創期にWebエンジニアになるためのコースが学校になかったのと同じで、どうすればロケットのエンジニアになれるのだろうと思っている人が多いです。
だけど、ロケットのエンジニアは別に特別な仕事ではありません。例えば、カメラなどを作る仕事と根本的には変わりません。
藤田: 工場を見に行ったときに、そんな感じがしました。
堀江: やっていること自体は、他のものづくりとそんなに違わないですよ。制御システムを作っているソフトウェアエンジニアは、以前iPhoneのアプリを作っていました。設備系のエンジニアは、石油化学のプラントを作っていた人で、部品の加工は町工場で働いている人です。
つまり、何かの機械を作ったり、自動車を作ったりしていた人たちであれば、自分たちが持つ技術を使えるのが、ロケット開発の現場です。
藤田: 社長の稲川貴大さんは、鳥人間コンテストに出ていましたよね。その延長線上にあるような感覚で、前例がないことでもできるはずだと思ってやっているのですか。
堀江: そうですね。彼はもともと制御系のエンジニアです。センサーから入ってきたデータによって機体がどのように挙動するのかを把握して、制御にフィードバックする、といったことが専門です。ジンバルカメラやドローンに使われている技術と同じです。
恐らくドローンやジンバルカメラの事業を起業したほうが儲(もう)かっていたかもしれないですよね(笑)。だけど、ロケットはさらに難易度が高いです。制御や機械加工の技術に加えて、ロケットエンジンなどの高度な推進系の技術が必要になってきます。
現在、ロケットエンジンの心臓部にあたるターボポンプを、室蘭工業大学と荏原製作所との共同で開発しています。もともと宇宙航空研究開発機構(JAXA)でH-IIAロケットのターボポンプを作っていた教授の指導のもとで、チームを作って取り組んでいます。
藤田: 皆さんともお会いしましたけど、まさにベンチャーという感じでしたね。集まってくる人は、他でやりたいことができなかったから、ISTにきているのでしょうか。
堀江: JAXAでは、打ち上がるロケットとして今30年ぶりに新しくメジャーアップデートされるロケットエンジンを作っています。逆にいうと、携わるチャンスが少ない。次に新しい開発をするのに、最低でも10年以上はブランクが空くと思います。それに、オールドスペースのロケットは、一度確立したものができるとバージョンアップしないのが通例です。
だからキャリア的に言えば、ISTの方が新しいロケットの開発も、打ち上げも経験できます。そこが面白いところです。イーロン・マスク氏のスペースXもそうですが、いわゆるアジャイル開発みたいな感じで、ロケットを打ち上げるたびに技術をバージョンアップしています。
藤田: 常に最先端のものや、高性能なものを取り入れることができるのが、新しい会社の強みですね。
堀江: IT産業もある瞬間から、たくさん人がきましたよね。宇宙産業も同じように、雪崩を打つようなすごい勢いで人が入ってくる瞬間がくると思っています。米国はすでにそうなっていますから。
藤田: ISTもそのときまで頑張ってください。
堀江: 期待に応えられるようにしたいので、これからもよろしくお願いします。
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