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はじめしゃちょー、タリーズも熱視線 「トムとジェリー」が若者に支持され続ける理由82年の歳月を超えて(2/2 ページ)

タリーズコーヒージャパンは「トムとジェリー」とのコラボ商品を発売した。日本を代表するYouTuberのひとり、はじめしゃちょー氏は「トムとジェリー」のファンであることを公言している。同氏に、トップクリエイターも手本にしている「トムとジェリー」のコンテンツ力の秘密を聞いた。

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これまでにない客層が店頭で行列を作った

 工藤氏は、2年前に「トムとジェリー」と初めてコラボした際に、大きな手応えを感じたという。

 「(グッズを求めて)朝、お店に並ぶ方や、複数店舗を渡り歩く方もいました。コラボがきっかけで初めてタリーズに来店した人も多く、タリーズカードを購入したお客さまは再来店にもつながりました」

 これまでにない客層の呼び込みに成功したコラボとなり、特に集客に貢献したのは「30代の子育て世代」だという。子育て世代にとって、「トムとジェリー」のようなコンテンツは映像として子どもにも伝わりやすく、泣き止んでもらう効果もあるのではないか、と工藤氏は分析する。

 確かに、筆者がよく足を運ぶ歯科医院でも「トムとジェリー」の映像が流れており、幼児や小学生が食い入るように見ているのを目にする。言葉を理解しなくても直感的に面白い、というコンテンツの在り方は、YouTuberの人気コンテンツにも共通点があるように見える。

 そこで、今回は日本を代表するトップクリエイターのはじめしゃちょー氏にも「トムとジェリー」の魅力を聞いた。


コラボ商品

はじめしゃちょーも手本にする「仕掛け」と「表情」

 YouTuberのはじめしゃちょー氏は、以前から「トムとジェリー」の大ファンであることを公言していて、今回のタリーズコーヒーと「トムとジェリー」のコラボ記念イベントにも登場した。

 「子どものころから母に見せてもらっていました。この歳になってコンテンツを作る上でもすごく参考になります」と話す同氏。特に注目するのは仕掛けの面白さだという。

 「トムが仕掛けて、ジェリーが怒る、という”やってやられる仕掛け”。それが唯一無二の面白さなんです」

 実は、『ルパン三世』の作者であるモンキー・パンチ氏も、主人公のルパンと銭形警部の「追いかける関係性」について、「トムとジェリー」の要素を取り入れているという。この仕掛けの考え方は、はじめしゃちょー氏がドッキリを仕掛けるYouTube企画などで手本にしているそうだ。

 「ただ一方的に、こっち(制作側)の都合で(相手に)ドッキリを仕掛けると(見ている人にとっては)『かわいそう』となってしまうことがあります。その点『トムとジェリー』は、トムも仕掛ければジェリーも仕掛ける。『かわいそう』から、エンターテインメントに昇華させているのです」


「トムとジェリー」の魅力を語るはじめしゃちょー氏

 こう話すはじめしゃちょー氏がもう1つ挙げた魅力は、「表情」の面白さだ。

 「僕も(YouTubeの動画で)怒っているとき、びっくりしているときは、言葉より表情で感情を伝えるようにしています。感情が映像を見てぱっと分かることが大切です」と語った。

 確かに「トムとジェリー」も、主に表情と動きによってキャラクターの魅力に引き込まれるようになっている。そこには難しいストーリーや巧妙な設定は存在しない。だが、どんな人が見ても何をしているのかが理解できる「分かりやすさ」があるのだ。はじめしゃちょー氏の動画作品にも、「トムとジェリー」を見て培ったこの「分かりやすさの魅力」が発揮されているようにも思える。

 例えば同氏が6年前に公開した「世界最大級のグミを1人で食う!」という動画は、全世界で1.2億回も視聴された。言葉の壁を超える同氏のコンテンツ力の裏側には、この「表情」の分かりやすさがあり、その点で「トムとジェリー」と共通するヒットの秘密がある。多くの人に受け入れられる理由は、まさに分かりやすさにあるのだ。


(YouTubeの動画で)怒っているとき、びっくりしているときは、言葉より表情で伝えるようにしているという

"しょうもない"にどこまで本気を出せるか

 ネット世代に人気を博しているはじめしゃちょー氏。意外にもインタビューでは「実体験することの大切さ」を語った。今後のクリエイターとしての活動でも"リアル"を大切にしていきたいと話す。

 「インターネットが普及していて、何でも調べれば出てくるし学べる時代です。ではどうやってセンスを磨くのか。それは実際に体験する、手で触ってみる、目で見るといったリアルを大事にすることだと思うんです。こういう時代だからこそリアルを大事にしていきたい。リアルを大事にすることによって人間としての魅力も増すと考えています」

 先述した「世界最大級のグミを1人で食う!」以外にも、はじめしゃちょー氏の人気コンテンツには「コーラ風呂に体中メントスで入ってみた」「スライムで風呂作ってみた」など実験をテーマにしたコンテンツが多く並ぶ。そこに共通するのは「しょうもなさ」だと話す。

 「"しょうもない"ってすてきなことだと思うんです。"しょうもない"にどこまで本気を出せるか。これは『トムとジェリー』を参考にしています」

 考えてみれば「トムとジェリー」にも難しい話は一切でてこない。単なるトムとジェリーのドタバタ劇だ。だが、そのしょうもなさが多くの視聴者の心を打っている。


"しょうもない"にどこまで本気を出せるか。これは『トムとジェリー』を参考にしているという

 ともすると過激な映像づくりや、誤解を招くような表現も生まれ、「炎上」することも少なくないYouTuberをはじめとするコンテンツ業界。ネットメディアだけでなくテレビや広告業界でも配慮を欠いたコンテンツには批判が生まれることが少なくない。

 そんな中、はじめしゃちょー氏のコンテンツは、視聴者の感情を先回りして、言葉がなくても伝わる「表情」をつくり、読み手の解釈がずれにくい編集を施している。これらの表面的には見えにくい、だが地道な努力が、国境を越え、1000万人以上に影響力を持つトップクリエイターに押し上げた。

 その一方、80年以上を経ても愛される「トムとジェリー」は、30代の子育て世代にも根強い人気を誇り、マクドナルド、ファミリーマート、かっぱ寿司など、食品系ブランドとのコラボが絶えない。

 この両者のコンテンツ力の秘密には、普遍的な「仕掛け」と「表情」の分かりやすさが隠されている。

著者プロフィール

星裕方(ほし・ひろのり)

星裕方(ほし・ひろのり)。1993年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。広報PR業界を経て、現在は地域活性化やNPOにも活動の場を広げている。


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