売却はそごう・西武にとどまらず? イトーヨーカ堂に迫る魔の手と、カギを握るスーパー:どうなるセブン&アイHD(4/4 ページ)
セブン&アイHDによる、「そごう・西武」の売却方針の発表が大きな話題を呼んだ。ここで筆者が気になるのが、イトーヨーカ堂の動向だ。グループの食品販売チャネルを担う同部門において、カギを握るのが「あるスーパー」だという。
イトーヨーカ堂の食品シフトと非食品のテナント化は、これまでも方向性としては示されていたが、外から見れば緩慢に見えた。さまざまな内部事情もあったのだろうが、現経営陣は株主からの改善圧力という外圧を前向きに活用して、あるべき方向性への変化を加速させるだろう。スーパーとしての食品強化に関しては、グループ内にヨークベニマルという業界屈指の有力スーパーもある。首都圏の住民にはあまりなじみがないかもしれないが、ヨークベニマルの食品売場構成力は、業界各社が一目置く水準であり、仮に首都圏の食品売り場がヨークベニマルだったら――と想像すると、その競争力は飛躍的に強化されることが目に浮かぶ。
個人的な話をすれば、かつて全国の食品スーパーを訪ねて回るような仕事をしていた時期がある。その際、ベニマルの売り場は店内を一周すると、「今日の夕食はこれが食べたい」と自然に思わせてくれる提案力があり、すっかり感心してしまった数少ないスーパーの一つだった。セブン&アイグループの中核は、国内の覇者であり、海外にも展開していけるセブン‐イレブンなのではあろうが、ヨークベニマルという一見地味な地方スーパーは、これからのイトーヨーカ堂の反撃に重要な役割を果たしていくことになるだろう。
昨年末、業界で話題となった関西スーパー争奪戦に参戦したオーケーは、コストパフォーマンスを武器に、首都圏16号線内側で急成長した食品スーパーだ。なぜ、16号線内側をターゲットにしていたかといえば、外側はヤオコー、ベルク、ベイシアといった強力な郊外型新興勢力がせめぎ合う厳しい競争環境であったため、そこは後回しにしたのである。
空地が少なく新規参入が少ない16号線内側は、コスパに定評あるオーケーから見れば強敵が少なく、連戦連勝で成長できた。イトーヨーカ堂もこれまではずいぶん顧客を奪われてきた側であったと思われるが、ヨークベニマルが相手だったら、オーケーといえどもそうやすやすとシェアを奪うことはできなかっただろう。それどころか、首都圏の駅前一等地をおさえているイトーヨーカ堂の食品売り場がヨークベニマルになったと仮定すれば、セブン&アイHDの食品売り上げは大きく拡大する可能性がある。22年初頭のアクティビストの書面が発端となって、食品特化したセブン&アイHDのスーパーストア事業は、首都圏において盤石の基盤を築くことになったのである――10年後にはこういわれているかもしれない。
関連記事
- 新生ハンズが地方に大量出店? 「王者」カインズの東急ハンズ買収から見える、意外な未来
業績不振に苦しんでいた東急ハンズを、ホームセンター業界の王者・カインズが買収する。ニトリの背中も見えてきた同社は、かつて時代のトレンドを生み出してきたハンズをどう変化させるのか。 - マツキヨ・ココカラ不振の裏で、「肉・魚・野菜」の販売にドラッグストア各社が乗り出す納得の理由
コロナ禍の追い風が吹いたドラッグストア業界の中でも、売り上げ減だったマツキヨ・ココカラ。その背景には何があったのか。また、ドラッグストア各社でなぜ、「生鮮食品」の販売が広がっているのか。 - イオンとヤオコー、スーパー業界の優等生がそれぞれ仕掛ける新業態の明暗
イオングループのスーパーにもかかわらず、トップバリュ製品を売らない新業態「パレッテ」。高品質が売りのヤオコーが新たに仕掛ける、低価格業態「フーコット」。両社の狙いはどこにあるのだろうか? - オーケーに関する2つの誤解 関西スーパーが守ったものと失ったものとは?
買収劇で渦中のオーケーと関西スーパー。小売・流通業界に筆者は、オーケーに関する「2つの誤解」が問題を複雑にしていると指摘する。加えて、関西スーパーが守ったものと失ったものを解説することで、今回の騒動をひもといていく。 - もはや「大企業誘致」は時代遅れ! 今、地方経済の活性化で「地場スーパー」が大注目なワケ
地方経済の活性化において、これまでは大企業を誘致し、工場の設立などを軸とした雇用創出などが「勝利の方程式」であった。しかし今、大きく時代が変わる中で、もはやそうした方程式は崩れつつある。そこで筆者が注目するのが、地場スーパーだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.