ソニーが放つ、異色の“穴あきイヤフォン” 「ヒアラブル機器」が再ブレイクしそうな理由:本田雅一の時事想々(2/3 ページ)
ソニーが発売した「LinkBuds」は、ヒアラブル機器が新しい世代への入り口に差し掛かったことを予感させる製品だ。LinkBudsは、ただの「快適なイヤフォン」ではないという。どういうことかというと……?
LinkBudsの核となるハードウェア要素は、丸いリング形状のドライバユニットだ。このドライバユニットから耳に音を伝えるが、穴が空いているため耳道をふさがず、周囲の様子を完全に把握できるし、長時間、快適に利用できる。
このリング型ドライバは、その構造や振る舞いから感じるに、リング型のダイアフラム(振動板)を駆動し、作り出す音波を耳方向に送り出す仕組みのようだ。一般的なダイナミック型のイヤフォン用ドライバの真ん中をくり抜いたような仕組みになっていて、そこに耳方向への指向性を与える構造設計となっている。
筆者が試したところ、最大音圧は十分と感じる。一方で、フルオープンのため周囲がうるさい環境、例えば電車の中や混んだ駅の構内では音圧が不足していると感じるかもしれない。しかしオフィスや自宅の中などであれば問題はないはずだ。
このような仕組みで心配されるのは音漏れだが、図書館のように静かな場所で隣にいれば音が聞こえてくるだろうが、電車などの交通機関はもちろん、ちょっとしたカフェで使うのであれば、周囲の暗騒音にかき消されて誰も気付かないはずだ。
あまり高い音圧が得られないこともあるが、音漏れに関しては本当に静かな環境でなければ問題になることはないだろう。それよりも解放感に満ちた、何時間でも装着していられる感覚を得られることの方が、この製品の場合は重要となる。
リング型ドライバとともに重要なのが、軽さと装着時の圧迫感の少なさだ。
片側4グラムしかなく、軽量であるがゆえにLinkBudsを安定させる交換式のウイングチップ(5サイズが同梱される)も極めて弱いバネ性しか持たされていない。またイヤーチップは耳道に密着するわけではなく、ドライバユニットを耳道の外に留め置くための支えでしかない。
あまりに軽量なため頼りない感触だが、実際に動き回っても正しいサイズを選べば、落ちることはなく、軽量ゆえに装着しているのを忘れるほどの軽快さだ。AirPodsのドライバユニットに風通し穴をつけたような感じ──といえばいいだろうか。
しかし快適であることは、LinkBudsが実現しようとしている世界の入り口でしかない。ソニーは装着し続けていることを忘れるような、軽快で密閉感のないTWSをベースに、耳を通してスマートフォンを中心としたネットワークサービスとユーザーを接続しようと試みている。ここが快適イヤフォン以上である理由だ。
「ただの快適イヤフォンではない」という周知が進めば変わる
誤解を恐れずにストレートに表現するなら、LinkBudsの音質は決して素晴らしいものではない。音楽は楽しめるが、音楽に没入し、演奏者の呼吸、グルーヴ感を感じながらとことん音を楽しむのであれば、選択すべきではない製品だ。
しかし、それは本製品の一番の目的を達成するために必要なことでもある。
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