ソニーが放つ、異色の“穴あきイヤフォン” 「ヒアラブル機器」が再ブレイクしそうな理由:本田雅一の時事想々(3/3 ページ)
ソニーが発売した「LinkBuds」は、ヒアラブル機器が新しい世代への入り口に差し掛かったことを予感させる製品だ。LinkBudsは、ただの「快適なイヤフォン」ではないという。どういうことかというと……?
音で囲まれた生活空間と”なじむ”ことが目的でオープンエア形式を取っているのだから、周囲の音から自らを遮断し、集中力を高める目的にも向いていない。
つまり、最近流行のノイズキャンセリング機能付きイヤフォンやヘッドフォンとは真逆の価値観で設計されているわけで、これはある意味当然のことだ。心地よいカフェの空間に、ハイファイオーディオではないが、何処かから漂ってきている音楽。そんなイメージをすると感覚的には近いかもしれない。
しかし、長時間装着しても蒸れず、快適に過ごせるがゆえに、音楽を聴くという目的以外でもユーザーインタフェースとして機能する。
鍵となっているのは聴覚に3Dを感じさせる立体音響技術の360 Reality Audioだ。この技術を使った3Dアレンジの楽曲もあるが、ユーザーインタフェースとして立体音響を用いる。
こうした特性を生かせそうなサービスがある。例えば、ソニーが提供している「Locatone」は、場所にひも付いたコンテンツを再生するサービスだ。観光地で撮影ポイントを紹介し、そこに行くと音声で撮影方法や構図の取り方などをアドバイスしてくれたり、ちょっとした街の散策案内なども行えたりする。
マイクロソフトは「Soundscape」というサービスを展開している。これは聴覚を用いた地図サービスで、目的地や探している場所の方向を立体音響で示してくれる。例えば、近くにあるはずのレストランを探そうとすると、その方向を音で示してくれるという具合だ。
立体音響技術はアップルも空間オーディオの名称で提供しているが、信号処理技術の向上によって驚くほどリアルな方向感を得られるようになっている。
もちろん、これまでの製品にもあったように、着信したメッセージやメールなどの通知を読み上げるといった機能も提供されているが、立体音響によって表現できる幅が広がったことで、ヒアラブル機器の応用幅は広がる。
「まだ2種類だけ?」と物足りなく感じるかもしれないが、両サービスともLinkBudsの「常時装着しても生活を邪魔しない」という特徴と相性が極めて良い。没入を得るためのイヤフォンとは異なる世界観がLinkBudsを通じて周知されるようになれば、新しいサービスのアイデアが生まれてくるだろう。
一つ、不満があるとすれば、常時装着を期待する機器であるにもかかわらず、バッテリーケースによる再充電なしでは連続5.5時間しか使えないことだろうか。これを“しか”と捉えるかどうかは微妙なところだが、急速充電機能を備えるとしても単体で8時間以上のバッテリー駆動時間が欲しいところだ。
しかし今後は、LinkBudsのライバルも多数登場してくるのではないだろうか。アップルのAirPodsも方向性としてはLinkBudsに近い要素を持っている。ここに新しいチャンスがあるとみれば、世界中のベンチャーが挑戦してくるだろう。競争は発明の母でもある。
聴覚を通じてネットワークサービスとのインタラクションを取るために、どのパートナーがベストなのか。新しいアイデアが多数出てくることが期待できそうだ。
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