ドラえもんがつくった地下鉄は公共交通か? ローカル線問題を考える:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)
『ドラえもん』に「地下鉄を作っちゃえ」という話がある。のび太がパパのためにつくった地下鉄は公共交通と認められるか。この話をもとに、公共交通になるための過程、利用者減少から撤退への道のりを考えてみたい。
のび太がつくった地下鉄は公共交通か
現実社会において、地下鉄は公共交通機関と認知されている。しかし「のび太の地下鉄」は公共交通と認められるか。認められない。なぜなら、この地下鉄は「のび太のパパ専用」だから。野比家の私有物、自家用鉄道だ。
みんなで共有しないから、公共交通として認知されない。したがって公共交通の特典ともいえる「土地家屋の資産税の減免」「補助金」などもない。自家用鉄道に公金を投入するなんて、ほかの納税者から見れば不公平そのものだ。
ここからはマンガ本編を離れる。
のび太の地下鉄が頓挫せず、無事に開通し、パパの通勤が便利になった。のび太自身も地下鉄に乗って通学したい。ドラえもんは「そんなこともあろうかと、学校の地下も通しておいたよ」と言ってくれる。「そんなこともあろうかと」は鉄道土木建設でよくある話。ここは緩やかな勾配にするつもりだったけど、有力代議士の地元だから、あえて前後の勾配を大きくして、駅をつくる平坦部をつくっておくか、なんて話はある。
学校も通ることだし、のび太の地下鉄に野比家以外の人を乗せてあげたらどうだろう。のび太ならしずかちゃんを乗せたいだろう。ジャイアンもスネ夫も乗せろというだろう。ここまでは友達だから野比家の客だ。恋のライバル出来杉君は断ってもいい。のび太とパパ専用の地下鉄だから。
しかし、マンガに描かれた電車は10人くらい乗れそう。詰めたら20人くらい大丈夫。それなら、野比家の近隣に住む町内の人を乗せて、きっぷを売ったらお小遣いを稼げる。ドラえもんだって「のび太くんのパパのためにつくったのに、ほかの人も乗るならきっぷを買ってもらってよ」というだろう。ドラえもんのひみつ道具の代金はドラえもんが払っている説があるので、ドラえもんとしては投資を回収したいはず。
のび太の私有物だったとしても、他人が乗るとなれば公共交通の仲間入りだ。みんなが使う公共施設だ。のび太が他人にきっぷを売った時点で、のび太の地下鉄は私鉄であり、公共交通サービス事業となる。
おっと、そうなると鉄道事業として許可を得る必要がある。先につくっておいて許可しろとは図々しいけれど、そこはドラえもんと未来から来たのび太の孫、セワシ君がなんとかしてくれた、としよう。
余談だけど、公共交通となったからには、しずかちゃんが出来杉君と「のび太の地下鉄」でデートしても、のび太は出来杉君を断れない。「自分の鉄道だけど自分だけの鉄道ではない」みんなの鉄道だ。客を平等に扱う義務がある。それが公共交通である。
鉄道事業法によると、鉄道事業は「自分が所有する専用軌道を用いて、他者のために輸送サービスを提供する事業」をいう。いまは細分化されて、自社が所有し自社が運行する方式を「第一種鉄道事業」、自社が設備を保有するけれど、自らは列車を運行せず、ほか者に貸して運行してもらう「第二種鉄道事業」、ほか人の保有する設備を借りて運行する「第三種鉄道事業」となっている。のび太の地下鉄は「第一種鉄道事業」となる。
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