ドラえもんがつくった地下鉄は公共交通か? ローカル線問題を考える:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
『ドラえもん』に「地下鉄を作っちゃえ」という話がある。のび太がパパのためにつくった地下鉄は公共交通と認められるか。この話をもとに、公共交通になるための過程、利用者減少から撤退への道のりを考えてみたい。
公共交通サービスは撤退を許されない
のび太はまたドラえもんに泣きつく。「もう地下鉄はやめたい」。電車だって古くなれば買い換えが必要だ。傷んだレールは交換しなくちゃいけない。ぜんぜんもうからない。もはや乗る人といえば野比家とのび太の友達だけだ。つまり、地下鉄をつくった当時、振り出しに戻っている。やがてのび太のパパも定年を迎える。乗客ゼロの日が近づく。
乗客数は振り出しに戻った。しかし、いまや「のび太の地下鉄」は公共交通だ。国の許可を得た以上、勝手にやめられない。やめるにも許可が必要だ。国はいう。「自治体と利用者が合意すればやめてもよい」。
自治体に相談すると「やめないでくれ」といわれる。これまでさまざまな資金援助、優遇をしてきた。税金を使って。やめたらそれが無駄になってしまう。今後、移住政策が成功したら、乗客が増えるだろう。移住政策のためにも鉄道はアピールポイントになる。だけど、いつ移住政策が成功するかは約束できない。
「ただね、のび太さん、乗客がゼロなら仕方ない。でも、1人でも乗客がいるならやめないでほしい」本音をいうとね。市長も私も、任期はあと1年ちょっと。面倒なことはやりたくないから先送りしたい。
そこで沿線の人々におうかがいを立てる。廃止なんてとんでもない。のび太の地下鉄はドラえもんがつくってくれたかもしれないけれど、いまや地域の財産だ。まあ、私は地下鉄に乗らないけれど、なくなったら困る人がいるはずなんだ。それが公共交通ってもんだ。廃止反対集会をやるから、私たちの意見、存続への強い意思を見てくれ。もちろん、集会の会場は大きな駐車場付きだよ。たくさんの人に来てほしいから。
こうして、のび太は地下鉄事業の撤退を許されず、空気だけを運ぶ日が続く。ドラえもんは赤字を自分のポケットから補てんし続ける。あれ、ドラえもんは何をしに来たんだっけ。セワシ君の人生を失敗させないように、先祖のび太くんの面倒をみるためだったね。だけどこのままでは、新しいひみつ道具を買う資金はない。のび太くんの幸せはどうなる。乗らない乗客に奉仕するだけの人生になるのかな。ああ、セワシ君、君の幸せもないかもね。
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