原油価格が史上最速ペースの値上がり 「第三次オイルショック勃発」の可能性も:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
原油価格が歴史上類を見ないスピードで値上がりしている。2020年にはマイナス価格になったこともあるNY原油先物が、22年の初めには75〜80ドル近辺まで値上がりした。そして3月に入ると、年初からさらに4割も暴騰し、一時は1バレル=112ドルを突破したのだ。
春になっても価格は維持?
ショック的な上昇が続いている原油相場だが、ウクライナ危機やロシアへの経済制裁が「価格上昇材料の出尽くし」となり、反落するとみる市場参加者も存在する。
ウクライナ危機が発生するまでは、原油価格は主に米国をはじめとした各種の物価指数の上昇に比例する形で高騰を続けてきた。しかし、ウクライナ危機の勃発によりその動きが鈍化しそうな点に注目である。
ロシアのような大国が絡む有事は、地政学のみならず貿易や金融面でも影響が大きい。景気見通しの不確実性が高まることで、これまでのインフレ基調に歯止めがかかるとみる市場参加者も少なくない。このようなロジックは米国の長期金利の推移からも浮き彫りとなる。それまでは2.0%程度の水準で推移していた米国の長期金利は、ロシアのSWIFT除外が決定してから1.8%程度まで低下している。
ここから考えると、インフレ速度が弱まる(ディスインフレ)によって、パニック街が続いた原油価格が反落するという見通しもたってくるかもしれない。また、春になると暖房の需要が低下することから、石油にかかる需要が落ち着いていくという見方もある。
そうはいってもコロナ禍による流通コストの増大は当面の間、長続きしそうだ。
主にタンカーで輸送される原油の輸送コストについては、アフラマックスの石油タンカー運賃指数が参考となる。アフラマックスとは、積載重量が8万から12万トンの範囲にある石油タンカーを指す言葉で、世界中の海で用いられるベーシックな石油貨物船だ。ちなみにアフラマックスの航路には、ウクライナ危機の渦中にある黒海も含まれている。この指数も年明けの52.5ポイントから足元では100ポイントと、ほぼ倍増した状態で高止まりしている。
原油以外にも、穀物をはじめとした幅広いコモディティも高止まりしている現状からすれば、当面は幅広い品目で連鎖する「値上げラッシュ」に注意したい。このたびの物価上昇イベントはしばらくの間続きそうだ。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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