JAL菊山英樹専務に聞く コロナ後の「国際線回復の切り札」:日本航空の行方【後編】(2/2 ページ)
苦しい経営環境の中で、日本航空(JAL)は2023年4月から国内線に新運賃制度を導入する。これに加えて、国際線専門の格安航空(LCC)、ZIPAIR(ジップエア)Tokyoの就航路線を拡充したり、非航空分野へ積極的に進出したりしている。菊山英樹専務にコロナ禍を克服した後の経営戦略を聞く。
非航空領域のビジネス展開は?
――環境対策として、代替航空燃料(SAF)を今後どのくらい使う計画でしょうか。
SAFは技術的に生産体制が確保できている燃料ではありません。SAFの消費量を拡大していく上で、25年度で全体の1%、30年度で10%にする目標はあるものの、その程度しか生産体制が追い付いていません。そこが一番のポイントで、国のエネルギー政策の根幹にかかわる問題です。国産のSAFを生産する道しるべを持っていることが極めて重要なはずなのですが、その認識共有の機運が十分でないと思います。
先日、この問題で全日空と共同レポートを発表しました。ステークホルダーの巻き込み方を含めて、諸外国の言いなりになるようなポジションになってはなりません。もう少しSAFの調達でドライブをかける必要があります。
――課題はどんなところにありますか。
SAFの原料は都市ごみ、廃食油、ミドリムシ、藻などいろいろあります。どれだけ調達して、どれだけ油ができるのか、まだまだ実用に供するレベルまでいっていません。本来ならば原料に制約があるものでは難しいと思います。空気中の水素と二酸化炭素で合成する技術が研究されているので、そういうところからSAFの技術可能性を担保できればいいのですが、かなり時間が掛かりそうです。
日本としては50年にCO2排出量ゼロという目標を掲げています。SAFだけでなく、大きな観点で技術開発に本腰を入れる必要があります。
――脱炭素の計画はどのように進めますか。
国と同じで2050年にカーボンニュートラルを目標にしています。30年先を考えるとSAFだけでなく、従来機と比べると省燃費の機材も出ているので、そういう機材も使っていくことが大事です。
その意味で、第3四半期決算の時に発表した脱炭素に資するための資金調達になるトランディションボンド(移行債、5年と10年債それぞれ100億円)を世界の航空会社で初めて出します(その後、10年債は起債延期となった)。これを含めた多様なやり方でカーボンニュートラルを達成していくことを中期経営計画で示しています。
――空港売店「BLUE SKY」の運営で知られるJALUX(ジャルックス)を、非航空領域の中核に位置付けています。今後の展開は。
経営破綻を経て関連事業をリストラし、航空本業に集中したことによって結果は出せました。ただコロナ禍に直面した今の段階では、「一本足打法」の限界を感じなくもありません。かといって経営破綻前のように冒険主義的にどんどん手を広げるのでは効果的ではありません。きちんとリターンを取りながら、自分たちのノウハウやアセットの中で経験を生かして物販事業を展開したいと思います。
JALUXの会員は23万人しかいませんが、JALは3000万人の優良な顧客を擁しています。ですので、これまでとはプロモーションの仕方も変わってくると思います。
JALのブランドやマイレージを使うこともできます。地方の産品を海外に紹介することなども含めて、今までにない仕組みを作って会員組織を含めたプロモーションをして事業を拡大していきたいと考えています。
「空飛ぶクルマ」の将来計画は?
――パイロット不足が指摘されています。退職者の補充、今後の人員確保は大丈夫でしょうか。
グローバルで言うとコロナ禍でパイロット人材は流動化していて、いまは雇用市場でパイロット不足による制約はありません。ZIPAIRでもパイロットは確保できました。
――「空飛ぶクルマ」の将来計画が経済産業省、トヨタ自動車などから発表されています。JALは大都市と地方都市を結ぶサービスとして考えているようですが、今後のスケジュールは。
25年開催予定の関西万博を踏まえて事業化できるようにプランニングを進めています。機材はドイツのVolocopter社など数社と業務提携し、その中から検討を進めています。ドローンのように物流に制約があるようなところで使え、2次交通手段としても活用できます。それに向けて官民で協力してルール作りなどを進めていくワーキンググループができていて、JALは参画しています。
関西万博は洋上飛行の部分もあるので、「空飛ぶクルマ」の最大のターゲットになると思います。
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