春のダイヤ改正、「撤退戦」で鉄道各社はどんな戦略を示すのか:衰退時こそ問われる(4/5 ページ)
コロナ禍で利用者が減り、苦しい状況が続く鉄道業界。それは3月のダイヤ改正にも反映されている。首都圏の鉄道各社は、どのような戦略を示しているのか。
郊外方面私鉄の戦略転換
郊外と都心を行き来する私鉄も、戦略の転換を迫られている。筆者の身近なところでいうと、新宿と多摩エリアを行き来する京王電鉄だ。
京王電鉄は3月のダイヤ改正で準特急を廃止、代わりに特急が笹塚と千歳烏山に停車する。これはJR東日本の中央線と競合する新宿および京王八王子との間の速達性を断念し、近距離の乗客も大切にするという考え方に方針転換するものである。実際に新宿からの特急や準特急は、調布で降りる人がかなり多く、現状に見合ったものといえる。
京王電鉄はこれまで、「中央線に勝つ」ことを意識することで士気を上げてきた。今後その役割は特急ではなく「京王ライナー」が果たすことになる。ちなみに、筆者の自宅最寄り駅の調布発基準で、平日最多本数時間帯の7時台新宿方面は、27本から26本へ減少している。
小田急電鉄は、平日朝の小田原発相模大野行き急行を5本削減し、朝ラッシュ時に特急ロマンスカー「モーニングウェイ号」を3本増発する。長距離の通勤利用を快速急行にまかせ、一方で長距離利用者を特急へと誘導しようとするのが小田急の生き残り戦略である。
小田急電鉄の急行は、開成〜本厚木間は各駅に停車し、新松田〜本厚木間を各駅に停車する快速急行と統合しても問題はないという考え方である。新しいダイヤでは、新宿着7時59分の小田原発列車や同8時19分着の秦野発列車など、長距離利用者を待ち構えたかのような設定をしている。
長距離の利用者からはなるべくならお金を取る、というのが小田急電鉄の考えだ。都心から離れた利用者の少ない駅からは、各駅停車やそれに類する列車を使用してもらい、ロマンスカーに乗ってもらう戦略を取った。
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