井の中の蛙「コロナ感染、菓子折りで謝罪せよ」――日本のおかしな組織文化:沢渡あまねの「脱アナログ庁」(1/3 ページ)
新型コロナウイルスによる隔離後、職場で菓子折りを配らなかったら上司や同僚から指摘を受けた――そんな内容のニュースがネット上で話題となった。なぜ、こうしたウェットな組織文化が生まれてしまうのか。350以上の企業や自治体、官公庁などでの組織や業務の改革支援を行ってきた沢渡あまね氏が、解説する。
先日、あるNHKのニュース記事がインターネット上で物議を醸した。
本人や家族が新型コロナウイルスに感染。隔離期間終了後、職場復帰した際に菓子折を持ってこなかったことを職場の上司や同僚から指摘されたという内容である。
インターネット上では賛否両論のコメントが交わされたが、筆者はこのような組織風土は、事業継続性や働く人たちのエンゲージメントなどの観点でも、大いに問題だと捉えている。
日本の組織文化のウェットさと闇が垣間見え、正直「公私混同甚だしい」「危機感がまるでない」と、ある種の情けなささえ感じている。
責任を個人に押し付ける、不健全な組織構造
新型コロナウイルスのような感染症の罹患は、ほとんどが自己管理では避けようがない「他責」要因によるものであろう。
家族の人数が多ければ、その分罹患リスクや外出自粛になるリスクも高い。特に感染力が強いとされているオミクロン株においては、かかるかかからないかは「もはや運次第」のような状況と推察できる。
もちろん、明らかに自己管理が足りない人については責める余地もあろう。しかし、多くの人がうがい、手洗い、マスク着用など日常生活を送りながら罹患防止に努めている状況において、感染による休職を本人のせいにしたり、「迷惑を掛けたから謝罪せよ」と迫ったりするのはお門違いも甚だしい。
休んだ本人を責めたくなる気持ちも理解できる。人手が足りない職場であればこそ、誰かが休めばその分の仕事のしわ寄せがほかのメンバーに行く。
しかしそれはマネジメント、すなわち経営の責任であろう。
- テレワークできる業務なのに、環境を整えない/認めない
- 混雑の中、出社させる
- 仕事のやり方を変えようとせず、欠員があっても業務量を減らさない
新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから、間もなく2年がたつ。にもかかわらず、対策を講じず、現場に不協和音とギスギスを生じさせている状況はマネジメントとしていかがなものであろうか? 新型コロナウイルス感染の怒りの矛先は、むしろ経営陣や政府や国に向けるべきではないか? 目の前の弱いものだけを悪者扱いするメンタリティと組織構造に、情けなさと陰湿さを感じる。
避けきれなかった感染に関しては、「仕方ない」で割り切る。それができないなら、個人を責めるのではなく、組織としての改善を図るのがオトナの対応であろう。
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