赤字ローカル線存廃問題 「輸送密度」だけで足切りするな:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/8 ページ)
地方ローカル線は、従前からの過疎化と少子化に加えて、疫病感染対策の長期化で危機的状況にある。特に輸送密度2000人未満の線区が課題とされるが、そもそも民間企業が赤字事業から撤退できないという枠組みがおかしい。公共交通は応益主義であるべきだ。そこで存廃問題で使われる「輸送密度」について考える。
【調査区間の距離】
1キロメートル当たりの数値を知るため、距離を指定する。路線全体の距離を入れる場合もあるし、路線の中で区間ごとの数値を入れる場合もある。区間ごとに区切った場合、路線全体の中で数値の高い区間と低い区間が明確になる。その路線の中で特に利用の少ない区間があぶり出せる。だから、鉄道事業者が区間を区切り始めたら「廃止区間を見極めようとしている」と考えられる。
【年間の営業日数】
たいていは365日、うるう年で366日になる。しかし、年度の途中で新規開通した路線を365で割ると、運行していない日を含んでしまう。災害で運休した路線も運休日を省く。JRの場合は運休日を含む路線の数値は「参考値」と但し書きをつける場合が多い。
清書するとこうなる。
輸送密度=「年間の輸送人数(人キロ)」÷「路線の距離」÷「365(うるう年は366)」
本来、輸送実績を知るだけであれば「年間の輸送人数」だけでいいはずだ。輸送密度は「1日、1キロメートルあたりの平均値」だ。実際に1キロメートルの区間を通った人数ではない。
1日の輸送量について、路線Aが2万人キロ、路線Bが4万人キロであれば、路線Bのほうが多い。しかし路線AとBは距離が異なるから、そのままでは輸送効率を比較できない。
それなら距離で割って、営業日数が異なるなら日数でも割って、1日1キロメートル当たりの平均輸送量で比較しよう、という数字である。路線Bは距離が長い割りに平均輸送量は少ないね、という話になってしまう。
輸送密度の本来の目的は「ほかの路線との比較」であり、路線単体の営業成績を知るためではない。確かに輸送密度が高ければ利用者が多い傾向はある。利用者が多いほど公共性が高いともいえる。しかし例外もある。
そもそも、ある路線の利用度、公共性を知るならば「年間の輸送人数」の統計を見たほうがいい。それを足したり割ったりするから実態と遠くなる。
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