連載
赤字ローカル線存廃問題 「輸送密度」だけで足切りするな:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/8 ページ)
地方ローカル線は、従前からの過疎化と少子化に加えて、疫病感染対策の長期化で危機的状況にある。特に輸送密度2000人未満の線区が課題とされるが、そもそも民間企業が赤字事業から撤退できないという枠組みがおかしい。公共交通は応益主義であるべきだ。そこで存廃問題で使われる「輸送密度」について考える。
「混雑率」と同じ違和感
指標が実態と違う。この感覚は、大都市で通勤する人なら「混雑率」で理解していただけると思う。通勤電車の混雑率は高度成長時代に300%以上だった。鉄道事業者の設備投資が進み、国土交通省の目標は180%とされた。
JRも大手私鉄も180%を目指して増発、増結を続けてきた。小田急電鉄が複々線化で混雑率を大きく改善したという発表も記憶に新しい。
しかし実態は違う。混雑率180%を達成したという路線に乗っても、「急行電車はギュウギュウ詰め」「各駅停車は空いている」「電車の前方は混んでいて、後方は空いている」である。
理由は簡単で、混雑率は「通勤時間帯の全利用者数」を「電車の定員」で単純に割っただけだから。運行種別や乗車位置の混雑度は反映されない。
これと同じ現象が「輸送密度」にも起きている。JR西日本の芸備線は広島県の広島駅と岡山県の備中神代駅を結ぶ。距離は159.1キロメートル。20年度の輸送密度は1140人/日。JR西日本が廃止したい基準の2000人/日以下だ。
しかし区間ごとに分けると、広島駅〜下深川駅間14.2キロメートルは8444人/日で、北陸新幹線のJR西日本区間、上越妙高駅〜金沢駅間の8224人/日より多い。一方、山間部の東城駅〜備後落合駅間は25.8キロメートルで9人/日だ。
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