赤字ローカル線存廃問題 「輸送密度」だけで足切りするな:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/8 ページ)
地方ローカル線は、従前からの過疎化と少子化に加えて、疫病感染対策の長期化で危機的状況にある。特に輸送密度2000人未満の線区が課題とされるが、そもそも民間企業が赤字事業から撤退できないという枠組みがおかしい。公共交通は応益主義であるべきだ。そこで存廃問題で使われる「輸送密度」について考える。
細かく区間を分けて集計すると、混雑区間と閑散区間の差が見えてくる。例えば、JR西日本が公開した資料を比較すると、島根県の木次線について、19年度の輸送密度は190人/日。20年度の輸送密度は133人/日だ。
外出自粛、観光自粛で数字は下がっている。ただし、20年の資料は区間ごとの数字を出している。起点の宍道駅〜出雲横田駅間は198人/日、出雲横田駅〜備後落合駅間は18人/日。
つまり、木次線全体の輸送密度を下げている区間は出雲横田駅〜備後落合駅間ですよ、と見せた。輸送密度を公開するとき、区間の明細を出したら要注意だ。
時間ごと、曜日ごとの偏りも輸送密度からは分からない。輸送密度が2000人/日で距離が10キロメートルの「路線A」は、実態として「全区間乗車して通学する高校生しか乗らない」とする。乗車日は平日に偏る。文科省の資料などを参照すると、高校生の年間授業日数は平均200日だという。だから実態としては人キロを365ではなく200で割った方が現実的だ。
2000(人/日)×10(キロメートル)×365(日)=730万(人キロ)
これを営業日数200日とする。
730万(人キロ)÷10(キロメートル)÷200(日)=3650(人/日)
となる。
1日当たりの利用者は3650人だ。通学は往復だから、片道1825人の通学生が列車に乗る。鉄道車両はローカル線向け中型車で定員110名程度。混雑率180%として198人乗れる。片方向で通学時間帯に1825人が移動するとなれば、198人で割って10両が必要だ。4両編成で片道3本の列車を必要とする。5両編成であれば2本で済む。
路線バスの定員は60名という。本当に60人乗ったらいっぱいになってしまうから混雑率は関係ない。片道1825人の輸送量を定員60名ので賄うと31台も必要になる。実数としての31台ではなく、10台でピストン輸送して6往復+1台。路線Aをバス転換したら、鉄道の並行道路に延べ61台のバスが走り回る。
平行道路が片側1車線なら、通勤マイカーとの混合交通で渋滞間違いなし。仮定の上塗りでいえば、緊急車両はこの時間帯に速度を出せない。例えば、ボヤで済む火事は全焼に、助かるはずの病人やけが人は死亡する。これはちょっとあおりすぎか。
これでも、輸送密度2000人/日、10キロメートルのローカル路線は役に立ちませんか。不要ですか。
そういう議論をしなくていけない。
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