EVは電力不足の敵か救世主か: 鈴木ケンイチ「自動車市場を読み解く」(3/4 ページ)
日本の電力供給体制の脆弱性を明らかにした昨日の電力ひっ迫。ここで気になるのがEVという存在です。電気で走るEVはどのような存在になるのでしょうか。ポジティブなのか、はたまたネガティブなのか?
EVを電力を貯めておくバッテリーとして使う
一方で、「電力が不安定だからこそEVが必要だ」というポジティブな意見もあります。それは「EVが不測の事態に備える家庭用の電池となる」こともできるから。電力不足になったら、社会の電力網ではなく、自宅にあるEVの電力を使えばいいという考えです。
フル充電のリーフがあれば、そのバッテリーには一般家庭5日分の電力が蓄えられているわけです。電力が逼迫(ひっぱく)しそうなときも、自分だけの電気があれば、誰にも迷惑をかけることはありません。もちろん電力網への負担もゼロ。なんとも嬉しい存在にEVがなるのです。
しかし、この使い方には、いくつかの条件が必要です。まず集合住宅はダメ。EVの電気を家庭で使う(V2Hと呼ぶ)ための専用の装置を完備した一戸建てだけが可能となります。そして、なによりもEVに余分な電力が溜められてなければなりません。計画的な利用が求められるのです。
また、そうした停車中のEVをまとめて活用しようというアイデアもあります。それがVPP(バーチャル・パワー・プラント)、「仮想発電所」とも呼ばれるものです。街中にあるEVを、電力グリッドの管理者がオンラインで管理し、必要に応じて充放電を実施。EVを仮想の発電所として利用しようという技術(V2Gと呼ぶ)です。日産自動車は、2017年ごろからVPPの実証実験をスタートさせており、昨年も経産省補助事業「VPP構築実証事業」を実施。EVを電力グリッドに接続して充放電させるV2Gの実証プロジェクトを行っています。
この技術が実用化されれば、電力需給のバランス調整に大きく貢献することは間違いありません。電力グリッドに接続できるEVが増えるほど、調整幅が大きくなりますから、EVが普及するほど効果も大きくなります。
ただし、VPPの技術はまだまだ開発中。また、そもそも電力グリッドがEVユーザーのバッテリーを自由に使うことには、EVユーザーのメリットがありません。「今夜は電力需給が厳しいから、あなたのEVの電気を使わせてね。明日は我慢してね」ということにもなりかねないのです。
もちろんEVオーナーの不満を解決するための方策も練られているはずですが、現状では、まだ技術やノウハウを積み重ねる時期。完成後は社会に大きく貢献する技術ではありますが、明日から実用化されるようなものではありません。もう少し時間が必要です。
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