仕事で死ねて本望? モーレツ社員の危険すぎる“過剰適応スパイラル”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
先日、アクセンチュアが違法な残業で書類送検されました。コンサルや他の業界でも「この業界は、働いてなんぼの世界」「仕事が好き」「もっと会社に貢献したい」などと考える社員が、自ら進んで働きすぎてしまうことがあります。これは、長時間労働を一掃するのが極めて難しい原因の一つです。この難題と、どのように向き合っていくべきでしょうか。
おまけに、人は「仕事の要求とプレッシャー」が高まると、過剰適応しがちです。
「もっといい仕事をしたい」「もっと会社に貢献したい」「もっとお客さんを喜ばせたい」といった承認欲求が、「いい仕事をするためには、私的な時間を犠牲にしてもやむを得ない」という誤った判断に導き、自ら“働きすぎ”を拡大するのです。
難しい仕事であればあるほど、身も心も疲れ果てボロボロになっている状態を、心は「頑張っている自分」と知覚します。長時間労働→疲労→家でも仕事→睡眠不足→脳と体が疲弊→作業能率の低下によるミス→自己嫌悪→挽回するため長時間労働+家でも仕事→さらなる疲労、といった地獄の過剰適応スパイラルから抜けられなくなる。
そもそも脳には、疲れの見張り番のようなセンサーがついていて、疲れると「眠ってください」と指示を出します。しかし、それを無視して働き続けると、見張り番自体が故障してしまい「休んでください」という指令を送れなくなります。
指示が出なけりゃ、「疲れている」と自覚もできません。
その末路が「過労死」であり、家族の「仕事が好きな人だったので……」という、やるせない言葉なのです。
私たちがヒトという霊長類の動物である以上、「日が暮れれば寝る」のは至極当たり前で、私たちの身体は「夜は寝るためにある」という前提でプログラムされています。
どんな素晴らしいキャリアを重ねても、「健康」のボールを落としたら元も子もない。私たちは「仕事」「家庭」「健康」という幸せの3つのボールを持ち、ジャグリングのように回し続けることでしか幸せになれません。
どんなに「仕事」のボールを高く上げたい時でも、「家庭」と「健康」のボール落とさない、働き方、働かせ方を忘れてはいけないのです。会社は、3つのボールを回し続けられる働かせ方を、させなくてはいけないのです。
そのためには、管理職の徹底的な意識改革が必然です。と同時に、裁量権を与えることも忘れてはなりません。顧客からのオーダーであっても、「断ることができる」裁量権を。
そして、その案件が「社運」をかけたものであっても、「断れ!」と断言できる覚悟をトップが持つ。
その覚悟なくして、「社員の命」を守ることはできないし、経営する資格もありません。
著者新刊のご案内
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。
関連記事
- ノー残業デーに「勝手に残業」する社員、残業代の取り扱いは?
ノー残業デーに「勝手に残業」する社員が数人出ている企業。本人からの残業申請や相談はない。こんな場合、どうしたらいいのか? 社労士が回答する。 - 本当は怖い「週休3日制」 導入にはデメリットも
「選択的週休3日制」の導入を検討する企業が増えている。しかし、週休2日で働く社員と週休3日で働く社員が混在することで、思わぬデメリットを生む可能性もある。導入前に考慮すべき、4つのデメリットとは? - 「アニメ好き」がまさかの大活躍 毎年200人超が異動・兼業する、ソニーの公募制度がすごい
ソニーの社内公募制度では、毎年およそ200〜300人が異動や兼業をしている。「自分のキャリアは自分で築く」という意識が根付いているという背景には、どんな制度があるのか。人事担当者に話を聞いた。 - 快進撃が続くソニー 優秀な人材を生かす背景に「プロ野球のようなFA制度」
2014年頃まで業績不振が続いていたソニーだが、構造改革を経て、今では安定的に利益を生み出している。構造改革後に追加された社内公募に関する「3つの制度」は、優秀な人材を生かす今のソニーの下支えとなっている。これらの制度について、人事担当者に話を聞いた。 - 「残業しない」「キャリアアップを望まない」社員が増加、人事制度を作り変えるべきでしょうか?
若手や女性を積極的に採用したところ、「残業はしない」「キャリアアップを望まない」という社員が増え、半期の評価ごとに成長を求める評価制度とのミスマッチが起きている──こんな時、人事はどうしたらいいのだろうか? 人事コンサルタントが解説する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.